#65
第十二話『予想を裏切り期待を裏切らない』
いよいよ始まった文化祭。繁盛している執事喫茶。俺はその補欠みたいなものだったのだが、学級委員のエリカはなんと俺に許可を出してくれたのだ。人手は足りているから他のところを自由に見て回っていいと。
「ィィィイヤッフウウウウウウぅ〜〜ッ!!」
「あ! あいつ1年D組のマサキじゃね!?」
「ホントだ! 出し物サボってんのか!?」
これはフィーバーせざるを得ない! 周りの目は気にしない。時間なんて気にしない。
「ぶっちぎるぜぇ!」
気合い入れてそんなことを叫んで、俺は学校の中を見物。文化祭一色に染まっていてどこも個性豊かだ。まずはどこに行こうかなぁ。猛獣狩りに行くわけじゃないから槍と鉄砲は持ってないけど、パンフレット持ってるし。まずはマップを見て決めようかな。
「E組はおばけ屋敷、C組は輪投げかー……」
廊下を歩きながらマップを見る。どこも楽しそうだなー、おばけ屋敷はちょっと怖そうだが――。いや、おばけ屋敷にはダチの神永さんがいるのに行かなくてどうする。行かなきゃダメだろー、行かなきゃ。
「おい、そこのあんた!」
考えている途中で誰かから声をかけられた。振り向けば、そこにいたのは占い師みたいな格好の誰かさん。声からして男っぽいけど――マジで誰?
「な、何?」
「恋のことで悩んでいるんだろう。わたしにはわかるぞぉ」
「い、いや……」
頭からベールを被って、水晶玉とかも置いてて如何にも占い師っぽい雰囲気。
「ってか、占ってくれるの!?」
「ああ、タダでね」
「タダで!? やったぁ!!」
「ただし、条件がある」
「条件って?」
タダで占ってくれる代わりに条件があるというので、それが何なのか聞こうとしたら占い師は男女の写真を取り出した。男はこの学校の男子生徒で、女の方は白衣を着た栗色のロングヘアーの先生だ。しかもスタイル抜群で美人。
(――エリノ先生と……誰だっけこいつ?)
「この男女の恋を成就させよぉ。さすれば道は開かれん」
「あー……えーっと……」
見た目が完全にヤンキーな男子生徒、そのヤンキーくんが恋心を抱いているのは麗しの美人校医――。待てよ、まさか。
「B組の寺辺ェ〜〜!!」
「ぐわー! バレたかぁぁぁぁぁ!!」
肩を掴んで占い師――もとい、1年B組の寺辺ヒロユキを揺さぶってみる。
「これでもか! ヒャッホー!!」
「うぎゃああああ、やめろおおおォォォ……」
ちょっと遊んでやったところでおいらは先を行く。いつまでも寺辺に構ってたら時間が無駄になっちゃう。おいらは時間を無駄遣いしない主義なのだ。ウソじゃないぜ? 大切にして、有意義に使わんとな。
「おばけ屋敷は視聴覚室だっけ、あれれ」
パンフレットによると、1年E組は視聴覚室を借りておばけ屋敷にしているらしい。もちろん今日限定だ。歩いて他の生徒を見つめてニヤニヤしながら、俺は視聴覚室の前に向かった。
「!? こ、これ……ホントに視聴覚室なのか!?」
――我が目を疑った。カボチャやコウモリ、蜘蛛や蜘蛛の巣をイメージした不気味な装飾。怪物が大きな口を開けたような外見の扉。外面からして既に物々しい雰囲気だ。受付には――白い布を被ったおばけみたいな格好の誰かがいる。魔女っ子もいるなぁ――しかもカワイイ。
「どうもー。あっ、ミカちゃん」
「お、D組の刃野くんじゃん。執事喫茶はいいの?」
「俺補欠! 人手足りてるから文化祭楽しんでこいってエリカ様からお許しを得たのさ」
「へー! エリカがねー!」
受付にいた魔女っ子は、E組の敦賀ミカちゃんだった。女子にしては珍しく、前髪を上げてオールバックにしているのが特徴的。
「ところで、もしかしてお一人様?」
「いや、ちょっと様子見にきただけだよ……」
「またまたー。そんなこといわないでさ、肝試ししていきなよ」
「や、ヤだよ。俺、神永さんを見たくて来ただけだから」
前日、神永さんからおばけ屋敷に来てくれと言われて嫌だと言えなかったので一応来てみたのだが――やっぱり怖い。やめておこうかなぁ。
「さよちゃんに? さよちゃんなら中にいるよ」
「え?」
「どんな格好してるかは入ってからのお楽しみだよー」
中にいるけどどんな格好なのかは秘密? 戸惑っている間に、ミカちゃんは名簿に俺の名前を書いていたようで――。
「はい刃野マサキくん一名♪」
「ちょちょちょっ! まだ入るとは言ってない!!」
時すでにお寿司。いや遅し。俺の背後に布おばけやガイコツのタイツを着た変なヤツが立ち――背中を押したっ!
「たったひとりの肝試し! おばけ屋敷から逃げ出せた人は誰もいないよー!」
薄暗く不気味な内装に、今日限定で改造された視聴覚室。恐怖におびえる俺の耳にミカちゃんの陽気な声が響く――。
「こ、怖いよー……」
無事に抜け出せるんかなぁ――。