#64
練習に練習を重ね、文化祭当日――。ついにこの日がやってきた。
「お帰りなさいませ、坊っちゃま!」
「お帰りなさいませ、奥様!」
「お帰りなさいませ、お嬢様!」
家庭科室にオープンした執事喫茶。本日限定で営業しているこの喫茶店では、男子生徒たちが正装に身を包んだ執事としてお出迎えしてくれる。これで我が校の女子や女教師たちのハートはキャッチ出来るってものよ。俺も働かなくちゃ。
「旦那様、ご注文をお伺いします」
「そんじゃ、コーヒー1杯ちょうだい。あとサンドイッチね」
「コーヒー1杯にサンドイッチですね。ご注文は以上でよろしかったですか?」
「以上ッス!」
「かしこまりました」
ホール担当のリョウが注文を聞き取り、キッチンに直行。
「コーヒー1杯とサンドイッチ頼むわー!」
「わかった!」
ご注文の品をキッチンにいる他の執事たちに連絡。――あれ? 女子はどうしてるかって?
いつからこの執事喫茶に女子がいないと錯覚していた? 実はね――いるんだよ。お客様になったり、よそへ遊びに行ったりとかしてるそうなのだ。
「お客さんいっぱい来てて大繁盛すなあ」
そんな俺は何をやってるかというと――食器洗い!? そう、使用済みの食器を洗うこととなったのだ。ちきしょう! ちゃんとおうちで接客の練習してきたっていうのに、どうしてこうなった。どうしてこうなった!
「しかし酷いもんだよ……。みんなが表で脚光を浴びている一方で俺は余ったやつらと一緒に裏方! 悔しいィィィ!!」
いま呟いた言葉は、我がクラスの学級委員であるエリカさまへの恨み節でもある。エリカさまは厳しい方であらせられる。真面目で優しい子なのだが規律には厳しく、不真面目な人や出来事は大嫌いなのだそうだ。よって我ら1年D組は――少しでもたるんではいけないのだ。服のたるみは精神のたるみ。精神のたるみはやる気がない証拠。エリカさまが良く口にする言葉だ。
「マサキくーん」
「エリカ? どうしたん?」
エリカさま、ご到着。ヤバい――さっきの心の叫びが聞かれていたかもしれない。エリカさまはすっげえ地獄耳らしいからなぁ――。
「食器洗いお疲れさま!」
「へ?」
エリカさまが俺の肩をポンッ! と叩く。部下の肩を叩くという行為は会社でいうとリストラ寸前という証だが……やめてくれないか。俺は窓際族じゃない。窓際族じゃなーい!
「マサキくんは真壁くんと交代ね!」
「こ、交代? なんでまた」
笑顔でそう告げるエリカさま。同じクラスの真壁くん(真面目系クズ)と交代しろとのことだが、その真意はすぐ明らかとなる。
「今は人手が足りてるの。それにマサキくんは元々補充要員だし……このあと暇じゃない?」
「う、うん。確かにお暇ですけど」
「じゃあ、他のところ見てきてもいいよ!」
「やったー! って……え〜〜〜〜ッ!?」
エリカさまは基本的に厳しい。だが同時に非常に慈悲深い方でもあられたのだ。こうしてエリカさまから直々にお許しをいただき、俺は他の出し物を見てきてもいいことになりました。補充要員で良かったー!
マサキです。
……えーと……
なにも浮かばねえ! まあいいや。
次回、『予想を裏切り期待は裏切らない』! お楽しみにね!