#62
「ただいまーッ! エリカ、みんなー!」
「おっ! 遅いぞマサキー」
「まさか、寄り道してたの?」
「してないってば! 人聞きの悪い……」
スーパーで材料を買ってきた俺はエリノ先生と泣く泣く別れて、みんながいる家庭科室に戻ったのだけれど――いや、もったいぶってるみたいな言い方だけど何も起きていないよ。
今のところは――ね。強いて言うなら寄り道疑惑がかけられたことぐらいだ。授業中、ましてや文化祭に向けた大事な準備をしているのにそんなことが出来ますかいな。
「頼まれてたジュースにケーキミックス、それから生クリームにコーヒーのもと! 頼まれてたもんは全部買ってきた!」
「ホント? これで当日も安心ね♪」
「デヘヘーっ」
エリカからそう誉めてもらって、なんだかとっても嬉しい。パシられた甲斐があったんだぜ。
「それで次はどうしたらいいんだい?」
「次? 次はねー」
「ははーん。そろそろ本日に向けて、練習すんのかな?」
「オレもそうだと思うが……むーん」
リョウを含む他のクラスメートたちと、わくわくしながらエリカの返答を待つ。なんせ、学園祭が近付いているのだ。気付けばあと三日。
みんな気を引き締めなければならない時期だ。更に演劇部や、けいおん部とかはリハーサルもあるからもっと大変なんだよ。こりゃあ放課後にティータイムやってる場合じゃないぜ!
「じゃあ……マサキくん、氷室くん! あなたたちはおうちで練習してきて!」
しばらく思考した末にエリカは返事をくれた。おうちで練習ね――よし。
「はいっ!」
「オッケー!」
俺とリョウはそれぞれ、軍人さんみたく敬礼したりして返答。「じゃあ、これね!」と、エリカからカンペを受け取って、決意を新たに練習に励むことにした。
――でもちょっと待てよ。なんでここでしないんだろう。練習するなら他のみんなと一緒にした方がいいと思うんだけどなぁ。
「な、なあエリカ!」
「何かしら?」
「な、なんで俺とリョウだけおうちで練習なの?」
「えっ? それはね、あなたたちはもしも何かあったときの補充要員だからよ!」
補充要員――だと? つまり補欠ってことなのか。えーっ……。いやでも違うよな?
「補充……かぁ」
おいリョウ、なんでそこでため息吐くんだよ。気持ちはわかるけどさ。
「ま、まあいいや。今日帰ったら練習する!」
「お願いねー! でも無理しないでね」
こうしてもしものための補充要員、要するに――補欠のような役に任命された俺はおうちで接客の練習をすることになったのである。