#59
第十一話『肉まんとおでんがウマい』
――地獄のような体育祭は終わった。いや、地獄だったのは練習だけか。跳んだり、走ったり、綱を引っ張ったり。いろいろあったね。どれも大変だった。
本番は緊張したけどそんなにキツくはなかったね。俺も男だ、あれしきでくたばってたまるかい。エリカにカッコいいところ見せられてひとまず安心。
――だが、しかし。一難去ってまた一難というように嵐はまだ過ぎ去ってはいなかった。端から見ればただのクロニクルかもしれないが――でもこれもこれでキツいのよ。いやホント。
その『嵐』とは何かというと――言わずと知れたジャ○ーズ系のアイドルユニット。じゃなくて、――文化祭! 楽しそうに見えるだろう。
けどね――文化祭は出し物やお店の準備をしなきゃいけないし、何より部活やってる人にとっては部活と重なって辛いんだ。ま、俺は帰宅部だけどね。
「くっそー、エリカも三ノ宮さんも人が悪いよ〜〜っ!!」
文化祭前日、更衣室にて。俺はあることを悔やみながら服を着替えていた。それは――レストランやカフェのウェイターさんが着ているスーツ。
「マサキ、文句言ってても仕方ねーだろ。決まったもんは今更変えようがないしな」
「そうよ。また来年があるじゃない」
と、そう優しく言葉をかけてきてくれたのはクールなイケメンクラスメイトの氷室リョウと――クラスの学級委員である山科エリカ。
リョウの野郎、もうウェイターの服を着こなしてやがる! しかも似合ってるじゃない――。くそぅ、爆発しろ。爆発して爆発して爆発しろぃ!
「だけどさぁ……」
「そんなこと言ってても何も始まらないわよ。さ、早く着替えて練習、練習!」
「はぁーい……」
だけどエリカの前でワガママばかり言うわけにもいかない。未練を振りきるぜ、俺!
そんな俺がなぜさっきまでブータレていたのかというと――それは、数日前の事だった。
「先生! 文化祭の出し物は個人的にメイド喫茶がいいと思います!」
「おおッ! メイド喫茶か……。刃野、オマエなかなかいい趣味してるな」
高校で初めての文化祭。催し物を何にするか考えて企画を立てることになったのだが――。俺は開始早々手を挙げてメイド喫茶がいいと、担任の長浜先生(三十路で体育会系でうざやかでうっさい人)に進言したんだ。しかし、そこに反論が入った。
「そんなの嫌です! 『お帰りなさいませ、ご主人様』だなんて恥ずかしくてあたしには言えません!」
「えーっ!!」
同じクラスにいた女子が恥じらうあまり反発。彼女はすごく真面目な子だったんだろうな。だからメイドさんになりきるのが嫌だったと――。
「ふざけるな! じゃあ何がいいんだ!!」
「執事喫茶なんてどうかな?」
その中で、ある一人の腐女子が執事喫茶がいいと意見を出す。他には「妹系メイド喫茶」とか「男装執事喫茶」とかいろいろ出たが、やがて論争が勃発。
「くっそー! メイド喫茶だ、メイド喫茶以外は認めない! お前もそうだよな、刃野!?」
「え? あ、ああ……まあ、そうかな」
「とにかくメイド喫茶だぁ〜〜! メイド喫茶以外認めねぇぇぇええ!!」
「いいえ、執事喫茶よ! うちのクラスはイケメン多いから絶対イケる! あたしのカンは当たる!」
「いいや、ロリからお姉さんまでよりどりみどりのメイド喫茶だ! これでいろんな層を呼び込める。そしてこっちの方が絶対にウケるぞ! 俺の占いは当たるッ!! お前のカンは外れる!」
この壮小な大論争には俺やリョウも参加した。もちろんメイド喫茶派だ。一度長浜先生が止めにはいるも抗争は止まらずヒートアップ。クラス中で騒乱が巻き起こり、中には殴りあいを始める奴もいた。もうメチャクチャだ。
「執事執事ってうるせえんだよおおおおおぉぉぉ! この変態ドM腐女子がああああああぁぁぁぁ!! 黙ってゼブラ執事でも読んでろおおおおおぉぉぉッ!!」
比較的冷静で良識のあるリョウまでブチキレて暴れだしたからさあ大変。戦況はますます混乱を極めた。争い事を嫌うエリカたち穏健派はますます心を痛めた。
もはやどうしようもなくなりつつある――。そんな中、ボコボコにされながらも先生が立ち上がりみんなへこう告げたんだ。
「みんな、こんなことで争うのはやめなさい! ここは殴りあいじゃなくて……話し合いと多数決で平和的に決めよう!」
「えっ……?」
「さ、最初からそうしたら良かったんじゃないですか! 先生、なんで早く言ってくれなかったんです!?」
「いやあ、話そうにもみんなが先生に容赦なく攻撃してきたからなぁ……」
長浜先生が出した助け船、それは多数決だった。争うのをやめてみんなで投票を入れた結果、最終的に執事喫茶に決まった。決め手は――最後にエリカさんが入れた清き一票。
「な、なぜだぁぁぁぁ!! なぜメイド喫茶がボツになったのだあああああ!!」
その時納得が行かなかった俺は、生徒会室へ急行。
「あら、1年の刃野さん? どうしてここに……?」
たまたまそこにいた、生徒会の一員で強い発言権を持つ――2年の三ノ宮ユカさん。彼女に地面に穴が開きそうな勢いで土下座してまで、メイド喫茶派の代表として俺はこう頼み込んだのだ。
「お、お願いです! どうか1年D組の執事喫茶の企画を取りやめて、その……代わりにメイド喫茶の企画を立ち上げさせてください!! この通りです! どうかお願いしますッ!!」
「じ、刃野さん――その熱意、しかとこの胸で受けとりました」
何かを決心したような表情で胸に手を当てる三ノ宮さん。だが――!
「ですが、今更取り止めることはできませんわ」
「そんな……どうして!」
「当たり前の事を言いますが……既に決まってしまった以上、私たちは全力で取り組まなくてはいけないの」
「た、確かに」
「それにここで中止して企画を潰してしまうのは、その企画を考えた人に失礼ですわ」
「ううっ」
「……刃野さん。お気持ちはわかります。あなたにはまだ来年がありますから、またその時に意見を出してみてはいかがでしょうか」
「はい……そうします」
アタマじゃわかっていたんだ。けどココロでは認められなかったんだ。最後に三ノ宮さんへ頭を下げて深く謝罪したあと、俺は生徒会室を去った。こうして……壮小な大論争は幕を閉じたのだった。




