#57
「エリノせんっせ〜い」
体育祭の練習というのは疲れちゃってかなわん。こうも毎日続いては肉体的にも精神的にも耐えられないよ。そういうことだから俺は保健室に向かう。目的は無論エリノ先生だ!
彼女は学級委員のエリカの姉。優しくおっとりした性格で話していて癒される。姉妹揃って美人さんなんだよなぁ〜。あんなんおったら惚れてまうやろー!
「失礼しまーす」
「あら〜、マサキさん。今日はどうしたの?」
微笑みながら訊ねてくるエリノ先生。恋の病です! だなんて言えるわけがなく、じゃあどうするかって? そうさね――。
「体育祭の練習があったじゃないですか。その時に足をぐねっちゃって」
「まあ大変! どの辺りが痛むの?」
「かかとの辺りです」
該当する部分を指差して先生に伝える。こういうときって正確に物事を伝えないと本当に痛い部分を診てもらったりできないんだよなぁ。やっぱりある程度は表現力があった方が良いよね。
「そこが痛いのね。じゃあ、かかとに湿布貼りますね〜」
エリノ先生に優しく声をかけてもらいながら、かかとに湿布を貼ってもらう。ああっ、ひんやりして気持ちいい! そこにエリノ先生の天使のような微笑みと癒しパワーが上乗せされるわけだから――足のぐねり程度はすぐに治るはずだ。
「これでもう大丈夫よ♪」
「ありがとうございますっ! エリノ先生のおかげで辛い毎日も乗りきれます!」
「えっ?」
「そのぐらいエリノ先生には感謝しているんですっ」
「あら〜、そう言ってもらえて嬉しい♪」
ニコッとエリノ先生が笑う。嬉しいって言ってもらえて嬉しいけれど、この反応――やはり恋には鈍感なのか? もったいない、もったいないよ。こんな美人さんなのに――。
「それにしても、今日は怪我人が多いなぁ」
「俺以外にも誰か来てるんですか?」
そう訊ねるとエリノ先生は、「ええ」と答えた。
「この時期は体育祭だから、練習中にケガをしちゃう人が多いの。だから私も毎日大変なんですよ〜」
「そうだったんですか、やっぱり……」
ちょっと残念がる俺。いや待て、何考えてんだ。エリノ先生は俺だけの先生じゃない。それにガッカリしてどうするんだ。ここはエリノ先生の日々の疲れを労う言葉をかけんといかん――。
「?」
「い、いえ何でもないです。毎日お疲れ様ですッ!」
「あら、ありがとう〜♪」
エリノ先生ったらすごく嬉しそう。労ってもらえるとみんな嬉しいよね。そうだ、これで良かったんだ――。
「ところで、他に来ている人はいませんか?」
「ええ、いるわよ〜」
他に誰が来てるか気になったのでエリノ先生についていく。するとそこはベッドで――。
「あっ……マサキくん!」
なんとベッドの上では神永さんが寝ていた。右足の膝を大ケガしたのかガーゼが貼ってあり、その上にはテープがいくつも――。なんて痛々しい傷痕なんだ。それにあの玉のようにつるつるした肌に傷がつくなんて。
「神永さん! そのケガどうしたの!?」
「リレーの途中で後ろ髪踏んづけちゃって……」
「えーっ! だからそろそろ髪切らなきゃってみんな言ってたのに……」
「そ、そうだよね〜っ」
恥ずかしげに神永さんが笑う。神永さんは足首まで髪の毛が伸びていて、走るときはとても危険。下手をすれば踏んづけてコケてしまうんだ。笑顔ではいるけどあんまり大丈夫そうじゃないぞ――。
「それか髪の毛を結ぶか、後ろ髪だけ切ってもらうかしてさ……」
「うーん、とりあえず今日のところは昼からの練習は休んで、安静にした方が良さそうね〜。神永さん、それでも大丈夫?」
「はい、平気です!」
心配するエリノ先生へ神永さんは元気よくそう答えた。とりあえず俺が余計な首を突っ込まなくとも大丈夫だということと、神永さんは大丈夫ということはわかった。いつまでもいたら邪魔になっちまうから、そろそろ引き返そう――。