#54
夏休みが明け、始業式は終わった。それからはとくに何事もなく一週間を過ごしたぞえ。そして訪れた週末――俺はレンの家に遊びに行った。いや、決してゲームするだけではないぞ。勉強会だってするぞ。たぶん――。
「お邪魔しまーす!」
「あらマサキくん、いらっしゃい!」
「おばさん、ご無沙汰してます!」
「お茶とお菓子用意してあるから、どうぞ上がって♪」
玄関ではレンのお母さんがお出迎え。このお母さん、元気いっぱいでなかなかの美人だ。トシは見た感じ俺のママンとだいたい同じか、少し上ぐらいだな。
なのにレンは俺のママンと変えてほしいだとか抜かしやがる。こんな美人さんなのに交換してほしいとは欲張りなやつめ! レンよ、お前のような親不孝者はお母さんに百回ぐらいは謝るべきだ。
「レーン!」
「な、何だいお母さん」
「マサキくん来たわよー」
「お邪魔してまーす」
「ま、マサキ! 来るの早いなぁ」
レンのママンと一緒に居間へ上がったら、レンのやつビックリしてこっち向いたな。なんで驚いてたかというとゲーム中だったかららしい。
ちなみにそのゲームはギャルゲー……いやギャルゲーじゃなかった。3Dのアクションアドベンチャーゲームだ。しかもちっちゃい頃よく遊んでたやつじゃないか――。
「それじゃあごゆっくり♪」
「はーい♪ ってお母さんも一緒なの!?」
「別にいいじゃない。ねぇ?」
「う、うん。まあいいけど」
「レン、いいお母さんじゃないか。ぐふぐふぐふぐふ!」
「頼むから寝取らないでよ……」
いいなーこれ。このシチュエーション。レンはちょっと嫌がってるみたいだが俺は断然オッケーだ。ちっちゃい頃もレンのお母さんがしっかり見守ってる中で良くゲーム遊んでたからなぁ。
もちろん外で遊ぶこともあったけどね。いやー、ホントにあの頃はよかったのぉ。――って、なんだか俺おじいちゃんみたいなこと言ってるな。
「二人ともこうやって遊ぶの久しぶりでしょ?」
「は、はい、まあ……」
「あ、そうでもなかったわね。マサキくんちょくちょく遊びに来てくれるし」
「でもお母さんも交えて……っていうのは久しぶりじゃないかなぁ。って、うわぁ! やられたーっ」
レンのやつ、お母さんに話しかけていたらステージ上の落とし穴に落っこちてしまった。いや、彼はゲーム上手いんだよ。でも油断して落ちちゃったんだよ。いわゆる凡ミスっちゅうやつやね。
「ははは! 油断しちゃダメだぞ、レン」
「う、うん……で、でも次はあんなミスしないぞ」
「まあまあ、次おいらにやらせて」
「いいよ」
この時レンは「ミスしろ、ミスしろ、ミスれ!」と言いたげな表情をしていた気がしたけど――ま、気のせいだよね。それじゃあやってみよう!
「たぶんこーいうのはマサキくんの方が上手いんじゃない?」
「ま、まさか。このゲームは僕の方がマサキよりやり込んでるよ。このゲームに限っては負けるはずがない」
「そうかしらねー?」
隣でレンとお母さんがおしゃべりしている中、俺はメチャ集中してプレイしていた。感情移入するタイプなもんだから、ついつい「行け、そこだそこだ、よっしゃー!」とか「よし、あともう少しだ! あっ、やられたー!」とかプレイ中に言っちゃうの。
わかる人いるよね? そうして俺はレンがミスった場所まで来た。このゲームはジャンプしたときの距離感がつかみづらいのだ。最初は少々手こずったが、あっさり飛び越えちゃった。あとはそのままゴールに辿り着いてクリアしちゃった。やーりー。
「マサキくん、すごいわねー! まさかクリアしちゃったなんて!」
「いやぁそれほどでも……」
なんとステージをクリアしたらレンのお母さんがオイラを褒めてくれたではないか。きれいだし元気いっぱいだし何より笑顔が素晴らしい! 理想的なママンじゃないか。一方レンは「まぐれだ、あんなのまぐれだ!」とぐずっていた。
「くそぅ……このままじゃ僕のプライドがズタズタだ。お母さん! さっきの面再チャレンジするから見てて!」
「え? あ、うん、いいわよ。どうぞどうぞ」
「果たして上手く行くかねー」
なんと、このままでは男がすたると奮い立ったレン君が同じステージを再チャレンジ! すごい勢いで難関を突破していく!
「レンすげえええッ!! 超うめーじゃん!!」
「へへ、まあね」
「こうなったらとことん応援しちゃうわよ。そら、いけいけー!」
「ファイト、ファイト!」
俺とレンママの声援を受けながらレンはガンガン突き進む。先程のプレイでは落っこちた穴を飛び越えた瞬間、みんなのテンションはMAXに。さあ、そのままゴールなるか!?
「いいぞレン! その調子!」
「あともう一息よー!」
「いける……いけるぞ、僕!!」
ところがどっこい、目前で敵にぶつかり――まさかの1ミス!
「あっ、や、やられたー! もうちょいだったのにぃ!」
「あちゃー……レン、やられちったか」
「まあまあ、そういうこともあるわ。あんまり気にしないで……」
かくして中間地点からやり直しとなってしまった。だけどレン――お前はよく頑張った。ドンマイ。