#53
第十話『春と秋なんて無い』
――終わった。いや、何がって? やだな、言わせんなよ恥ずかしい。そんなに知りたいですか。ん?
あー、どうやらそのお顔から察するに何があったか知りたいみたいッスね。じゃあ仕方ねえ、教えてあげよう。何が起きたかを!
単刀直入に言おう。ビックリするなよ。ビックリした勢いでそのまま転んでどっか打っちゃやーよ。
じゃあ言うぞ、ズバリ――
夏休みが終わった。なので二学期が始まり、学校に行くことになった。他にもいろいろだ。無論頑張って取り組んでいかなければならない。ただ、その――
「今日から二学期だよ、かったりぃぃぃぃ」
「俺もだ……ふあ〜〜っ」
今俺と話している男子生徒――彼は名を氷室リョウという。悔しいが俺より若干カッコいいクールなクラスメートだ。最初の方はヤツばかりが女子にモテており正直、悔しかった。だが今は違う。俺にもモテ期が到来したのだぁ! ぃやったーい
「なあ、マサキ。始業式って何時からだっけ? 聞いてねえか?」
「んー……そろそろじゃね? ちょうど先生も来そうだしさ」
「そうか、わかった。なら席に戻らねぇとな!」
リョウと世間話をして楽しんでいた俺だったが、そろそろ時間だ。席に戻ろうかの。
――さて、皆さんお察しの通り今日は二学期の始業式だ。新たな出会いと始まりを告げる大事な日なのだ。校長先生の大事なのかどうでもいいのかよくわからん話ももれなくついてくるぞ。あ、こっちは別にいいや。
さて始業式だけど、とくに変わったことはなかった。校長先生のスピーチの内容も相変わらずだ。ただ、新しくこの学校にやってきた女の先生がなかなか美人で驚いたな。むっさい長浜先生よりは美人で可愛い先生の方が、俺は嬉しいぞえ。むしろ本望でさえある。
その次の日の昼休み――、俺はリョウやレンと一緒に弁当を食べていた。あ、言っとくけどこの学校に食堂はねえぞ。まあ、学食はないけど購買はある。それがこの六波羅商業高校なのだ。
「しっかし、涼しくなったよねー。この前まで超暑かったのにさ」
「ホントホント。オレ暑がりだから助かるわ。うるさかったセミも大人しくなったしな。マサキは?」
「俺? 俺は〜……うーん」
「とくにはないか? お前あんまり気にしなさそうだしな」
「いや、あるよ!」
「へ? 何が?」
物珍しそうな顔でリョウとレンが俺を見ている。やだなあ、ゴミならついてないぞ。
「……風が涼しくなってクーラーつける必要が無くなった。これは寂しい!」
「おいおいそう来たか! 確かに気持ちはわかるが、その方が地球の為だぞ。時代はエコだからな」
「うんうん、リョウの言う通りだね」
「よせやい、照れるだろが」
ドヤァ! と勝ち誇った顔でリョウが仁王立ち。その後ろではレンがよいしょと担ぎ上げ。なんか腹立つ……。よし、ならば言い返してやる。
「でもさリョウ……」
「なんだよ?」
「エコを心がけるんだったら夜中にアニメとかインターネット見るのやめたら? あれこそエネルギーのムダ遣いだと思うぜ」
目には目を、歯には歯を。ドヤ顔にはドヤ顔を。どうだリョウめ、俺のスマイルもイカすだろう。ん?
「ぬかせっ! だったらお前も夏に寝るときはクーラーじゃなくて扇風機かけろよ!」
「なにをーう! 夜更かしは健康に悪いんだぞ!」
「それ言ったらクーラーつけっぱだって健康によくねえぞ! 風邪引いても知らねえからな」
「なんだとー!!」
「文句あんのかぁ!?」
歯軋りしていがみ合う俺とリョウ。こうなったらお弁当どころじゃないのはわかってた。ムシャクシャしてやったが、反省はしている。
「まあまあ二人とも……」
「外野は引っ込んどれぃ!」
「ゲフッ!」
興奮したリョウがそのままレンにゲンコツ! ふらつきながらレンは気絶した。頭上では星が回ってましたとさ、めでたしめでた――いや、めでたくねーわ。どうすんだこれ、自分からケンカおっ始めといてアレだけど収拾つくんかいな。俺にはわかんねーけどさ。――って心配になってたら誰か来た。来ちゃったよおーい! このクラス、いやこの学年でいちばん可愛いけどいちばんこわーい人が!
「マサキくん、氷室くん……」
その子は茶髪のポニーテールで瞳は緑色。胸はそれなり。普段は真面目で優しい彼女だが、怒らせるとメチャメチャ怖い。いま怒ってるから、えーと――鬼のような形相を浮かべて俺たちを睨んでいる!
「あ、あの、エリカ……さん? なぜそこまでお怒りになられているのでしょーか?」
「お、俺たち何にもしてないよ。そ、そう……何にも」
「へぇ……」
怒りの炎をたぎらせた学級委員のエリカは、俺とリョウの服の襟を掴むと……頭と頭をごっつんこさせたじゃなイカ! や、やめてくれ。本気で痛いから――
「食事中は騒がないの! いい?」
「はーい……」