#50
「ただいまー!」
「あっ、アニキ! おかえりー」
「何かいいのもらってきた? うふふ」
神永さんに助け船を出してもらい事なきを得た俺は、潔く帰宅した。そして目を輝かせて俺が帰ってくるのを待っていたルミと母さんに、手に入れてきた戦利品をお見せする。例の龍のぬいぐるみだ。そんだけだ。
「じゃじゃーん!!」
「わっ、すごーい! ラゴンくんじゃん! どうやって手に入れたの?」
「それがねー、実は……」
「実は……?」
「何度やってもゲットできなかったんだ。だから店員さんにお願いして取ってもらったの」
「あらあら。大変だったみたいね〜……」
「でしょ!? できればしたくなかったけど、お金の都合でお願いせざるを得なかった! 良心が痛んだよ……」
龍のぬいぐるみこと、ラゴンくんを片手にUFOキャッチャー相手に死闘を繰り広げていたときの出来事を二人に話す。いや、楽してゲットできてラッキー! なんてこれっぽっちも思ってないからな。本当につらい気持ちだったんだから……これはウソではないぞ。ラゴンくんをルミに手渡し、手洗いうがいをすませた俺はお茶を飲んで一息つく。
「母さーん、今日の晩ごはんなーに?」
「今日はカレーよ♪」
「わーい! 今日は母さんのカレーだー! わーいわーい!!」
「あらあら、マサキったら可愛いわねぇ」
おほほ、とママンが口元を綻ばせて優雅に笑う。クーラーはよく効いてるし、お茶はウマいし、今夜はカレーだし、ルミは可愛いし。至福のひとときだ。この際UFOキャッチャーでの苦い思い出は忘れよう、そうしよう。水に流しちゃえ。
「……ねー、アニキ。感傷に浸ってるときに悪いんだけどさ」
「なんだ?」
「また今度でいいから、ラゴンくんの色違い……とってきて!」
「オッケー、色違いね。……って、えええええええぇぇぇぇ!?」
妹というのはかわいいもんだ。だが、ときには悪魔のような一言を言うこともある――まったく恐ろしいのう。
「……というわけなので、ラゴンくんの白いバージョンください!」
「ムリです! 一度でいいのでUFOキャッチャーを遊んでからそう言ってね」
「えー、そんなぁ……」
翌日、同じゲーセンで同じ店員さん(爽やかなイケメン)にお願いしたのだが聞いてはもらえなかったっていう――。そりゃそうだよね。楽して手に入れるなんてダメだよね、うん……。