#47
第九話『3Dは目に悪い』
さて、夏休みが始まったわけですが――この期間にのみ発生するイベントはいったいいくつあると思う? 海の日はもう過ぎちゃったが、夏祭りに花火大会にプール――とにかく目白押しだ。とくに花火大会と夏祭りはデートの定番だから、この機を逃す手はない! 好きなコと仲良くなりたい人は要チェックだ。
だが夏休みのイベントは良いことばっかりじゃないんだな、これが――成績が悪かった人はガッコで予習を受けなければならない。更に言えば、遊んでばっかりの夏休みにならないように宿題もしなければいけないのだ。これがまた大変でさ、量がとにかく多いんだわ……学校に通っているみんなは、宿題は早めに終わらせようね。でないと8月31日に地獄を見るから――。8月31日といえば夏休みの終わりであり8月最後の日。その日までに宿題をやっておかないと地獄を味わうことになるのだ! 残された時間は24時間だけ。だが宿題の数は圧倒的な物量! 更にプレッシャーものしかかり、身体的にも精神的にもキツイ。最終手段として友達に押し付けてしまう方法もあるんだが、友情を破壊してしまいかねないので出来ればやめておいたほうが賢いぞ……。苦しみたくないのなら宿題は早めに済ませよう。お兄さんとの約束だぞ!
「エリカーっ」
夏休みが始まったばかりの日のことである。宿題で分からないところがあったので、山科家にお邪魔して教えてもらおうと俺は思ったのだ。ピンポーン! と玄関のブザーを鳴らしてみると――
「あら、マサキくん! 何しに来たの?」
「うん、ちょっと……宿題の解き方を教えてもらおーと思いまして」
「えーっ! しょうがないなぁ。ま、いっか……どうぞ上がって」
玄関へ通してもらった俺は靴を脱いで家へと上がる。なかなか大きな家なんだが、エリカによれば、生徒会長の三ノ宮さんの家に比べたらまだまだ小さい方らしい。お金持ちはやはり格が違うなぁ、エリカんちより大きいとは……今度行ってみよーかの。
「ありゃ? 今日はエリノ先生いないの?」
「お姉ちゃんなら今、学校よ。多分もうちょっとしたら帰ってくると思う」
「そっか……」
どうやらわしの天使・エリノ先生はまだ学校の保健室にいるようだ。ちょい残念……まあいっか。せっかく来たんだし、お勉強の解き方をレクチャーしてもらわなきゃね。わりかし得意な国語に社会、苦手な数学に理科――とにかくいろいろな事を手取り足取り教えてもらった。やっぱりエリカは勉強が得意だなあ。俺とは大違いだぜぃ
「はーっ! 本当に助かったよ! サンキュー、エリカ!」
「たまには自力で解いてよー。そっちの方が勉強になるから」
「デヘへ、すみませーん」
なんて注意を促されて、ほっぺたを掻いていると――ありゃ、インターホンが鳴ったぞ。お客さんかな?
「はーい」
エリカが玄関のドアを開けると、そこにいたのはなんと
「ただいま〜」
「お姉ちゃん! おかえりー♪」
な、な、なななんと! 彼女の姉で六波羅商業高校(略して六商)の校医であるエリノ先生だったのだ!
「あら、マサキ君が遊びに来てたのね〜」
「はい! エリカにちょっと宿題のことを教えてもらいに来ました……どーしても解けない問題があったので」
「そうだったの〜。わたしは自分で解いた方が勉強になると思うけどなー」
あうぅ……妹さんと同じことを言われてしまった。
「それで、その難しい問題は解けましたか〜」
「はいッ! お陰様でバッチリです」
「そうだったの。それはよかった〜。エリカは勉強が得意だし頭の回転も早いから、今日だけじゃなくて今後も参考になると思うよ〜」
うっ――その天女のごとき優雅で美しい姿はさることながら、おっとりした口調がたまらん! エリカのことを褒めちぎっているのも、それだけ妹のことを厚く信頼していて深く愛しているっていうのが伝わってきてヤベェ。
「そ、そんな大袈裟な。買いかぶりすぎだよ、お姉ちゃーん」
「えーっ。そんなに謙遜することないわよ〜」
ちょっと照れながら返事をするエリカの姿も、なかなかカワイイのう。ああ、これほどすばらしい姉妹愛が他にあるだろうか。なんか俺、邪魔者みたいになってきた――。二人の姉妹愛に水を差してしまわぬうちに帰らなくては。