#44
「うーん。そろそろ切ったほうがいいのかな〜」
「神永さーん!」
「ふぇ?」
「帰りスタバいこっ」
「わ、わかった。いいよー」
彼女の名は神永さん。1年E組にいる彼女はむちゃくちゃ髪が長く、なんと地面に着きそうなほど伸びている。俺も何回か会ったことあるけど、見る度に思う。『髪切ったほうがいいんでないの?』と。
「E組の神永カワイイよなー!」
「うんうん! でもあの子、めっちゃ髪長いよね……」
「確かに。未だに後ろ姿を見るのに勇気がいるよな……」
きれいにまっすぐというか、無造作に伸びたその長髪から由来して、神永さんはよく冗談まじりに『日本人形』と呼ばれている。
そういう俺はきれいだなー、なんて考えとるが――こういう考えはヘンなのかな。おいらああいう超ロングヘアー、大好きなんだけどなぁ。
「ミカちゃん最近どう?」
「毎日絶好調よ! アヤは〜?」
「うーん。まあまあかな。神永さんは?」
「私? えーっと……よくわかんないや」
「パッとしないなー。よし! どっかでジュース買おっか!」
「それ、いいアイディアね!」
「わたしもさんせーい!」
ある放課後の帰り、秘密裏に追跡していたレンや寺辺によれば、彼女は橘さんや敦賀ミカさんと一緒にいることが多いそうだ。いやあ、こういうとき『だけ』は本当に役立つよなぁ。あのドスケベ野郎め。
「――ほんで気になる神永さんの情報は他にねーのか?」
「ちょっと待てよ氷室ォ……んーとな、どこにしまったけな」
ちなみに神永さんについて情報を集めてくるよう依頼したのは、俺とリョウである。
報酬は帰りにアメちゃんをあげるという形で渡す約束となっていた。俺もリョウも気になって仕方なかったのだ。
とくにリョウはぞっこんのようで――あれ? おかしいねェ。こいつはロリコンだったはずなのに。
「あったあった! これだ」
「……それを……、見せろッ!」
寺辺がカバンにしまっていたメモをリョウがすばやくウヴァいとる。この時の様子ときたら、そりゃあもう恐ろしいもんだった。
すげぇ勢いで取り乱していたからか、いつものクールキャラが完全に崩壊していた。流石の俺もこれには引くわ〜……ドン引きだよ、ドン引き。
「ふむふむ、そうかッ! なるほどッ! 上から順に90、58、70か!」
「熱心になんか唸ってるけど、その数値はなんだ……?」
「知らねーのか? スリーサイズだよスリーサイズ!」
「結構エロいんだな」
興奮ぎみにリョウが叫ぶ。こいつ何やってんだ、声がでかいから周りに丸聞こえだぞ。
しかも内容は女子のスリーサイズのことだし。あまりにらしくないぞ――もしや暑さで頭をやられたのか?
「それだけじゃねぇ! なんとレッドアイズでブラックヘアーらしいんだ! 日本らしくて大変よろしいッ!」
「や、闇属性っぽくてカッコいいね。あはは……」
「はーッはーッ。そしておうちは……」
「ダーッ! これ以上はしゃべるな! 神永さんが可哀想だろ!」
疾風怒濤の勢いでメモを読むリョウを止め、そのメモも取り上げる。
他の三人も含め、周りのみんなは唖然としていたな。そして俺は、エリカや三ノ宮さんのいる生徒会にこれを持っていき――。
「三ノ宮さんッ! そしてエリカ! 大変だ!」
「1年の刃野さんね。何かありましたの?」
「1年C組の神戸と同じくB組の寺辺が、E組の神永さんのことをつけていたみたいです!」
「えーっ!? 神戸くんと寺辺くんが……?」
「信じがたいことだけど、本当なんだよエリカ。……しかもあいつら、神永さんのスリーサイズまで調べてました。けしからん!」
奴らが何をしたか洗いざらい告白。
リョウも同罪だが、ここはとりあえずあいつらだけにしときまひょ。しかしエリカや三ノ宮さんの曇った表情を見ると心が痛む……。
「なんですって! それは許しがたいわね……」
「確かに……」
「――わかりました。私のほうから先生方に伝えておきます」
「はいっ! お願いします」
こうして生徒会から先生方にレンや寺辺が神永さんのことを嗅ぎ回っていたということが伝えられ、二人は成敗されたのだった。
しかし後に、二人の供述で俺とリョウが黒幕であることが明らかになり、俺たちも制裁を受けましたとさ。――って、なんかおかしな話だな。日本語もなんかヘンだし。