#43
ある夏の土日のお昼時。俺はリョウとレンと一緒に冷たいシェイクでも飲みながら、草津の百貨店でランチタイムを満喫していた。
あ、アニ○イトは行ってないよ。しかし暑いね――夏になったから仕方ないとはいえ、妙に暑い。暑すぎる。脳ミソが溶け出しそうなくらいだ。
現に俺なんか湯気が出てしまっている。この暑さにはリョウやレンも少し難色を示しているみたいだ。平たく言えば、――この猛暑に対して不満をつらつらと並べている!
「あっちぃ〜〜〜〜…………」
「暑いなぁ。君ら夏バテとか大丈夫?」
「俺は大丈夫だけど、マサキは?」
「……俺も暑い!」
思ってることはみんな一緒だ。みんな暑くてかなわないのだ。しかも俺は人一倍暑がりだからなおさらである。シャツも基本的に半袖しか着とらん。そう思いながら俺は、ベーコンレタスバーガーをパクリとかじる。
「暑いと冷たいもん欲しくならねぇ?」
「なるなる! アイスとか冷やソーメンとか食べたくなるよね」
「一方で暑いからこそ熱いもん食べるツワモノもいるんだよなぁ」
なにやら簡単なようで簡単じゃない話をしていらっしゃるようだが、そんなことは俺には関係ない。今のうちにベーコンレタスバーガーとポテトを食べちゃうぜ。何せ俺は、おなかが空いていたのだから。別にいいじゃないか、食べられるときに食べたってさ。
「マサキは熱いのと冷たいのとどっちがいいの?」
「んー、時と場合による。どちらかといえば冷やそうめんを選ぶけど」
「そうなのか。もしかしてお前、猫舌?」
「んなワケねーだろ!」
猫舌――とは熱いものが苦手で、口にした瞬間に舌をヤケドしてしまう人や体質のことである。
熱いものって暮らしているうちに必ず出てくるから、そういう人はみんなで鍋物食べるときに困っちゃうんだよね。
氷入れて冷やしてもらったりとかすれば、なんとか仲間に入れてもらえそうだけど。俺は知らないが、そういう感じの改善方法はきっと何かあるはずだ。みんな、鍋焼きうどんは猫舌の天敵だ! 俺は猫舌じゃないけど、皆さんも気を付けてください!
「それよりさ、このあとどうすっか決めてるん?」
「あいにくだけど、予定なんかござんせん。俺たちの好きにしようぜ」
「じゃあ僕、ユニクロにカッコいい服探しにいく!」
「そんじゃ俺、アニメ○ト。マサキは?」
「んー……」
元気なおバカとクールでイケメンで残念なロリコンという、このメンツの中では比較的マジメで賑やかしみたいなポジションにいる俺は、実はあまり騒がしいのは好きではない。本屋みたいな静かな場所が好きなのだ。
「俺、書店に行くわ! またあとで1Fの真ん中のエスカレーター前で落ち合おう。それでいい?」
「オッケー!」
「おっしゃ、わかった」
そうと決まれば早速! 解散して別れようとした寸前に――やな奴がやってきた。
「オッスオッス! お前らこんなトコで何やってんの?」
「げぇ寺辺! 君こそなんだ!」
「俺? ……参上!」
いったい何がしたいんだ、こいつは。俺たちにはまったくわけがわからなかった。
「で? オメーら何しにきた?」
「俺は書店。リョウはオタクの聖地で、レンはひとりでさびしくファッションショー行くってさ」
「ひどいよマサキ! 他に言い方があるでしょ」
「すまぬ」
そんなやりとりをかわしつつ、会話のどっかで相槌を打ちたかったんだけど寺辺のヤツはなかなか話を終わらせてくれない。やめてくれないか、正直うざったいから。そんな中、寺辺は急に腕時計を見始める。
「いっけね、もうこんな時間だ」
「おい寺辺、お前どこに……」
「アニ○イトまで萌えキャラちゃんのグッズ買いに行く! お前らにゃやんねーよ!」
豪快に高笑い――もとい、バカ笑いを上げながら寺辺ヒロユキは俺たちの前から走り去っていった。
「……夏だね」
「夏だなぁ」
「夏だもんねー……」
世間じゃ夏休みが近くなると変なヤツが沸いてくると言われているが――あいつはまさにその変なヤツだったのかもしれない。あいつのアレは暑さでおかしくなったんではなくて、元々だからなぁ。