#41
がたんごとん! と、電車が揺れ動く。あとどのくらいで目的地に着くのだろう?
車窓から景色を覗きながら、俺はそんなことを考えていた。朝日が昇る丘にマンション、駅のホーム。いろんなものが俺の目を横切った。
「なぁ、なんか珍しいもんあったかぁ?」
「いっ」
そのとき、後ろから声が聞こえた。驚いて振り向くと、そこにいたのは――ピンク髪の女の子だった!
「し、蔀屋さん」
「一緒になるなんて珍しいねぇ」
もう忘れちゃったかもしれないので一応言っておく! 蔀屋さんは双子の姉妹で、青い瞳の子が姉のリサさん、緑の瞳の子がゆうこさんなのだ。
見分け方はそれだけではないぞ。バリバリ元気な方がリサさんで、マイペースでややおっとりした方がゆうこさんだ。このように蔀屋姉妹は見た目だけでなく、性格でもバッチリ見分けられるぞ。
「おっ、お姉さんは一緒じゃないの?」
「お姉ちゃん先に行ってもうてなぁ……しゃあないから、私はあとから来たんよ。それで刃野さんと出会うたわけ」
「リサさんはせっかちだからねぇ……」
なんて言いながら笑いあっていたら、電車はもう目的地に止まっていた。慌てて降りた俺たちはそのまま学校へ向かう。
たとえ通学時であろうと俺は、というかみんなは必死なのだ。理由は簡単、少しでも油を売れば遅れてしまうからである。
「――えー、かの海賊バスコ・ダ・ガマはのちに食卓には欠かせないものとなる、あるお宝を発見したのだが……それがなにか分かりますか?」
今日の最初に行われた授業は社会科だった。
夏といえば海のシーズンであることをよーく理解していたのか否か、シンスケ先生は海賊とか大航海時代とかをメインに授業を繰り広げた。
「わかる人は手を上げてください。……おい、上がらんぞー!」
バスコ・ダ・ガマが何を見つけたかは知っているけど、あえては言わない。というか分かりづらいっての! せめてみんなに分かる問題出さないと。
更に言えば、先生が出した問題の答えはガセかもしれない可能性だってあるのだ。そのことがバレてクビにされたって俺は知りませんよーだ。
などと考えていても誰も手を上げません。このままじゃうだつも上がりません。ならば仕方がない――俺が挙手する!
「先生! そのお宝って黒胡椒ですか!?」
「ブッブー、はずれ。正しくはブラックペッパーだ!」
「何それふざけんな! どっちでも同じじゃねえか!! わざわざ英語で言わなくてもいいだろが!」
さすがにこれは訴えるべきだろう! そう思っての行動だったのだけど……いま思えば怒鳴って大声出すほどのことではなかったな。反省。
「頭ひやせたか?」
「まだ熱い……」
「じゃあ、上から水かぶせてあげようか?」
「おいバカやめろ」
そこからとんで昼休み。わしゃあいつものようにリョウやレンと話し合っていた。俺からは朝の授業の話とか、電車で蔀屋さんと一緒になったこととかを話したぞえ。
「へへっ。そうだ、ところで……」
「うん? なんだ?」
「知っているか! とある軽音部の日常を描いたアニメの舞台となった学校のモデルとされている小学校の校舎があるのだが、そのアニメが放送されたあとに……なんと! その校舎がそのアニメのファンが殺到し今や聖地と呼ばれるようにまで発展したのだっ!!」
キャラ作りに必死なレンがまたもマニアックな知識をひけらかした。その知識をもっと他のことに活かせないものかね? そうすれば成績も上がったはずなのに。