#39
「ただいまーっ」
「おかえり、アニキー。早かったねー」
「まあねぇ」
紆余曲折あったけれど――無事家に帰ることができました。結局ア○メイトには入らず、終始リョウやレンに振り回されるだけの1日だった。だが! 要所という要所で楽しませてもらったので、一概につまらなかったとは言えないのも事実。どちらにせよ、友達同士で遊びに行ったのだ。楽しかったに決まっているさ。
「おかえり〜。案外早かったわね〜」
「向こうで遊んでたら、急に帰りたくなってきちゃって。それで帰ってきたんだ」
「分かるわ〜、その気持ち」
「えっ?」
「最初は楽しいけど……だんだんおうちが恋しくなってきて、それで早く帰りたくなっちゃうのよねぇ。私もそういうことがあったから」
「そうだったんだ〜……母さんにもそんなことが」
「ふふふ」
母さんが微笑んだ。いい笑顔だ、感動的だな。そしてやはり――心が癒される。いやらしさとかそういうの、まったく感じないから本当にすごいわ。つられてニコニコしながら、まったりとリビングでくつろぐことにしましょ。パソコン? ゲーム? そんなもんはあとでいい。勉強だってリビング借りればそこで出来るし、もはや至れり尽くせりだ。そういうことだし、のんびりテレビでも観ながらお茶とおかしを味わおう。あ、いや――のんびりお茶とおかしでも食べながらテレビ番組を観よう。……って、どっちでも同じじゃないか。
「えっ、えーっ! また良いところで終わっちゃったよ……」
「昔っから、ドラマってそういうものよ〜。果たして次回どうなるか……私も気になるわ〜」
「刺されたところで終わりなんてズルいよ! 余計気になるじゃんかー」
家族そろって、テレビ画面に食い入るように観ていたドラマ。その題名は――『地獄に咲くバラ』。ハードでシリアスかつ、陰鬱な内容で、生き別れた兄弟が再会するも二人は同じ女性に惚れており、その女性を取り合うドロドロした愛憎劇――という典型的な昼ドラだ。しかしどこで道を踏み外したのか、だんだんその重々しい展開は気がつけばコメディタッチの笑える展開に変わっていたのだ。兄弟が仲直りしたり、女性が実は双子の姉妹でそれぞれが兄と弟に惚れていました――等々、突然の路線変更に伴う急展開通り越して超展開に戸惑った視聴者は計り知れない。正直言って、俺もこのストーリー展開は解せぬ。だが何だかんだでドラマの世界観に引き込まれて夢中になってる辺り、俺ってこの番組が好きなのかもしれないなぁ。ちなみにこれ、再放送である。ご了承くださーい。そして、時は晩飯時へと移る。
「マサキ、またアニ○イト行ってきたのか?」
「うん」
「おみやげは?」
「買ってきてないよ、そんなもの!」
今日なにをしてきたかという話題を振られたので、目をパッチリと開き、誇らしげに口元を綻ばせてそう父さんに言ってやった。所謂『ドヤ顔』という奴だ。父さんの驚いた顔がこの目に飛び込む! 漂う謎の優越感――たまにはこういうのも悪くないなぁ。ぐふふ。
「ところで父さんは何かあったの?」
「わしか? わしはなぁ……」
「もったいぶらないで言ってよーっ!」
「せかすなよー……今から話すから! な?」
せがむルミを相手に父さんはタジタジだ。こうやって母さんと一緒に、父さんが困った顔を見るのも楽しいねぇ。わがまま言いたい放題の年頃な娘に振り回されるパパか――決めた。暖かい目で見守るぞ。
「今日のわしはなー……会社の若い女の子から飲みに誘われたんだよ」
「へぇー。それでそれで?」
「でも断ったんだ。美人だったけどわしには母さんがいるし、それに浮気なんかして母さん泣かせたらダメだと思ったからなぁ」
「うっそだぁ。父さんのことだ、鼻の下伸ばしてただろ」
「ち、違う! そんなことはやっとらん」
「あらあら。うふふ」
割とかっこよくて父親らしい台詞を吐いた父さんを敢えて揺さぶってみる。どうやら図星を突いてしまったみたいで父さんは酷くうろたえていた。やはりというかなんといいますか、面白い人だなぁ。