#37
「おりゃー!」
先生によれば好きな泳ぎ方でイイとのことだったが、俺はクロールを選びましたとのこと。
見事、チームがクロールと平泳ぎの2つに分かれたっけな。俺とリョウはクロールで、レンが平泳ぎだった。
そして必死で泳ぎ、向こう岸へたどり着く。順位をつけるとしたら3位といったところか――って、半端だな、おいっ! 2位よりマシだけど! 万年2位よかマシではあるけど!
「なあ刃野ォ……女子は平泳ぎよりクロールの方がいいと思うんだが」
「なんで?」
「だって平泳ぎじゃ腋とおっぱい見えねーじゃん! あの二大エロスが拝めないなんて、俺はそんなのヤだ!」
「何をぬかすかこのバカちんがっ!」
先に着いた俺たちはおしゃべりしながら待っていた。
が、女子がいるにも関わらず寺辺が空気を読まない発言をしたので懲らしめる。
こんな調子だから皆から嫌われるんだってことをいい加減に学習してもらいたいもんだ。
現にみんな迷惑がっているからなぁ――。
「いてっ! 何をするだぁ!?」
「俺はオマエの先生じゃないが……この場は慎みなさい! こういうイヤらしい話題はみんなの前でするもんじゃねぇ。どうせやるなら、おうちでやれや。な?」
「あ、ああ……うん」
柄にもなく寺辺に説教をかましたということ以外、その後はとくに問題もなく進んでいった。そして放課後、我が家にて。
「今日は高校行ってからはじめてのプールだったけど、どうだった〜?」
「うん! 楽しかった。それに水着の女の子もたくさん見れたしね」
「あらあら。もう、この子ったら〜」
晩ごはんを食べて、一息ついたときのことだ。
今日の水泳の授業のことを母さんらに話していたのだ。ちなみにルミや父さんも一緒だ。
「この前のお母さんのビキニ姿はご不満だったかしら?」
「いやいやそんなことない。ルミもそうだけど、むしろ最高だった。母さんは最高です!」
「分かってるなぁマサキ! 思えばワシも、さきこに惚れたのは水着姿がきっかけだったなぁ。今でもそうだが美人だった。天女が水浴びしてるのかと思ったぞ、ハッハッハ!」
「ちょっと〜。照れるじゃないですか、二人ともぉ」
母さんが恍惚を帯びながらそう言った。その美貌と悩ましいボデーでそんな可愛いげのあることを言っていて――すごく、可愛かったです。
同時に父さんの昔語りを聞いたとき、俺のスケベな性癖は父方の遺伝だったのか――と、少し苦笑いしてしまった。やはり血は争えないようだ……。って、これは普通親が言うことだよな
「ねえ、あたしもお母さんみたいにセクシーになれるかなぁ」
「えっ……そんなに私って色っぽかった?」
「うん。だってあたし胸小さいし、それにもうこれ以上は成長しそうにないし……」
どうやらママンはあれほどの爆裂ダイナマイトバディをもっていながら、自分自身のお色気には無自覚だったようだ。
実に勿体ない! うちのダディが既にメロメロになってるっていうのに。
そんなママンみたいになりたいとルミは願っていたようだが、どういうわけかそれは叶わぬ夢だと諦めかけていた。しょうがない、ここはお兄ちゃんである俺がなんとか元気付けないと!
「ルミっ! いいかい、よく聞けよ!」
「あ、アニキ?」
「ルミはまだ成長期だろ、理想のスタイルを持てるように頑張んなよ!」
「そうだぞ。例えば、牛乳を飲むとか牛乳を飲むとか……」
せっかく良いこと言おうと思ったらこれだよ。途中で割り込んでくるなよー。咳をして、俺は改めて激励をかける。
「だからルミ……あきらめちゃダメだ。もっと夢持とうぜ。な?」
「あ、ありがとう……アニキ」
なんということだ、またそれか。今度こそ違う愛称で呼んでもらえると思ったのに――俺は思わず目を丸くした。
「おいおいー! せめてお兄ちゃんって呼んでちょうだいよぉ!」
「へへーんだ。アニキもいつまでも現状に甘えてちゃダメだよー」
「そんなぁ……」
でも俺が思ってたよりルミはしっかりしていた。こりゃあ、あまり気にかけなくても大丈夫かもしれない。
「うちの子供はホントに仲良しなァ。しっかし、あんなに小さかったルミも、来年でもう高校生か」
「時が経つのは早いですね〜。私たちのときもそうだった」
「三年間あっという間だったもんなー。そのあっという間をチビたちには楽しんでほしいもんだ」
「そうね〜」