#35
第七話『11歳の夏』
夏といえば、海水浴。だがしかし、泳げる場所は何も海水浴場だけじゃない。
みんなが泳いでいい市民プールや温水プール、そして水泳教室。そう、夏といえばプールで泳ぐ季節でもあるのだ!
「はぁーっ! やっとプール掃除終わったなぁ」
「やったね。これで明日から、待ちに待ったプールだ!」
プールってのはいろんな理由で汚れてくるもんだ。みんなだって、藻が水面に浮かんでてヘドロが底にたまってるような汚水で泳ぎたくなんかないだろ?
だから、プールで泳ぎはじめる前にみんなで掃除をするんだよ。ぶっちゃければ不本意ではあるが――やらなきゃ、泳げないしね。
「にしてもさ、今日はよく寝れそーだな……俺ぁもうクタクタだぜぇ」
「おれも今日は夜更かしはすんのやめとくわ。寝不足で水着が拝めなくなったらイヤだしな」
「そだね」
お楽しみは明日だ。ここで寝坊しちゃあ、カッコつかねえってもんだ。
「ぐー……すぴー」
そして翌朝。俺はぐっすりと眠っていた。
プールのことを思い浮かべていた結果、興奮しすぎて眠れなかったからだ。
やかましいアラームに叩き起こされ、慌てて飛び起きたんだが、時刻を見てみると――。
「んあ……な、7時!?」
いつもは6時ぐらいには何があっても起きる俺だが、今回はついうっかりして一時間遅れてしまった――、つまり寝坊だ。ああ、なんと情けないのだろう!
「マサキ〜、早くしないと遅れちゃうわよ〜」
「わわわ分かってます! 早くごはん食べて準備しなきゃ!」
「準備ならお母さんがあらかたやってあげたから、心配しなくても大丈夫よ〜」
しかし嬉しいことに、母さんが既にある程度を準備をしてくれていた上に、急ごしらえだが朝食も用意してくれていた。
「あ、ありがとう! じゃあ俺急ぐね!」
「気持ちは分かるけど、食べるときはゆっくり噛まないとダメよ〜」
「ごっごめん」
――そんなこんなで、朝からドタバタしながらも無事に学校へ着きました。一時はどうなるかと思ったよ。
「すみません、遅れましたっ!」
「おっ、やっと主役のおでましだ。マサキー、席につけよ!」
リョウのヤツが必要以上にせかしてきた。
なんか腹が立つ。不本意だが、遠慮なく座らせていただこう。
「お前さ、なんでそんな先生みたいなことを……あれ、そういや長浜先生は?」
「実はな〜……」
リョウがにやつきながら俺に耳打ちした。
思わず目を丸くしてビックリしてしまったよ。まさかそんな事があるなんて――なんつってな。
「ダアーッ! はぁー、はぁーッ……み、皆いるかっ? 刃野が遅れたそうだが、もう来ているか?」
「き、来てますキテます!」
まさか、まさか。本当にまさか。先生が遅刻したのだ!
「しっかし、まさか長浜先生が遅刻とはねぇ。あはははは」
「わ、笑うなぁー! こっちだってなぁ、電車ん中で寝過ごすなんて思ってなかったんだよ! あんまりバカにすると先生な、本気と書いてマジで怒るぞ――――っ!!」
なんかヒステリー気味にそう怒鳴ってはいたが、みんなが笑っているのを聞いたらそんなのはどうでも良くなったみたいだ。
すぐに機嫌が良くなり、長浜先生もまたゴーカイに笑いだしたのであーる。