#34
「う、美しい……」
「ま、マサキ? あんた食べないの? 冷めちゃうよ、おーい」
しずか姉さんの言葉が耳に入らないほど、俺は山科姉妹に見とれていた。
どちらかといえば、やはりエリノ先生を見ていたな。無理もない、あの水着に収まったのが不思議なくらい胸があって、悩ましいくらいにむっちりしていたから。
それに胸もあったし。個人的には腰周りも反則だと思うなぁ。いや、やはり胸か? あれだけ胸あったら視界に入れない方が無理だしなぁ。
「食べないならあたしがもらうよー」
「エリノ先生、エリカと一緒に食べるんですか?」
「はい〜。何かオススメのものってありますか?」
「うーん……焼きそばとかいいんじゃないでしょうかね。きっとおいしいですよ!」
「そうですか〜」
「おーい、食べちゃうよ」
いくら注意されても、今の俺は山科姉妹に夢中。たぶんテコでも動かん。
「もしやこれから泳ぎに?」
「ええ」
そしてこのほんわかとした微笑みである。悩殺されても文句は言わないよー。
「にひひ」
「ど、どうしたのマサキくん?」
「エリカも楽しんできなよー? エリノ先生や他のお姉さんに負けないくらいなぁ」
「ちょ、ちょっとー!」
何故かな、ワシら男は好きな女の子ほどからかいたくなるもんだ。
恥ずかしそうにしているエリカの顔もまた、かわいいのう。
「こらマサキ!」
なんてニヤニヤしていたら、しずか姉さんに引っ張られて現実に戻された。致し方ないことよ、悪いのは俺だから。
「あーぶないあぶない。もう少しであんたのたこ焼き、食べちゃうトコだったんだから」
「もう〜、待つ方の気持ちも考えなさいよ〜」
「今ならまだ温かいよ、アニキぃ!」
しずか姉さんも、母さんも、そしてルミも。ちょっと怒っていた。
けれど、みんな食べるのを待ってくれていたのだ。ルミは食べかけちゃっていたが――。
「ごっ、ごめーん……もう水着のお姉さんには見とれないことにするから、許して!」
「本当だなー?」
許しを懇願したら、隣のしずか姉さんがニヤニヤしながら肩を組んできて……。別に何もされなかったから大丈夫だけど。
しかし、学校でも思ったことなのだが、みんなで食べるお昼ごはんはうまいものだなぁ。
そして、昼食後。もう二度と水着の女性は見ないと誓った俺だが、募る気持ちは抑えられず――。
「ほっほーい!」
「マサキ、これ!」
「あいよ!」
それは昼からの話。俺がリョウやレン、そして山科姉妹を交えてビーチボールを楽しんでいたのたときのことである。
「エリカぁーっ! そぉれぃ!」
ボールをエリカにパスするはずだったのだが、あろうことか照準がずれて隣のエリノ先生に飛んでいってしまった。はずかしー……。
「あぁんっ」
コツン、と、ボールがエリノ先生に軽く当たった。うーん、たまらんなぁ。そんなにエロい声を出されては、聞いてるこっちの胸がドキドキするぢゃないか。
――胸? 胸といえば……ああ、エリノ先生の胸が揺れている!
「お、おい、マサキ! 今の見たか!?」
「ああ、2つのビーチボールがたゆんたゆんって……!」
「は、はなぢがぁ」
「え!? なんの話?!」
「き、君は知らない方がいいことだ。な、なあみんな」
取り乱すなんて、らしくないとか思ったでしょ。
いやね、俺もまさかエリカが話題に食いついてくるとは思っていなかったわけなんだよ。
真面目で可憐な学級委員の彼女には、オタクの道は歩んでほしくないのだ。健全な子でいてほしいのだ。もう手遅れかもしれんが――
「オーッすげえ」
それからは地上に上がって、朝と同じようにボインを観察していた。
みんなと遊ぶときにセクハラじみた発言をするぐらいなら、海から上がってひとりで騒いだ方がいいよねぇ。
ちなみに何がすごいかって言うとだな――いや、言わなくとも答えは分かるんじゃないかね。少なくとも波ではないよ。じゃあ何かって? 胸に決まってるじゃん! 言わせるな恥ずかしい……あっ、言っちゃった。
――それから、翌週の月曜日――
「うっあー。毎日あっちぃなぁ」
「ホントだよなぁ。うちわで扇いでも熱風しか来ねぇや」
「うおおおおおあっちぃぃぃぃ!」
レンが発火しそうな勢いでなんか叫んでるけど、この際放っておいてもまあ大丈夫っしょ。
夏というのは本当に暑いもんで、極度の暑がりである俺にとっては地獄のような季節である。
しかし、アイスが食べ放題な上に一番おいしく感じる時期だし、水着のお姉さまもいっぱい見られるので、地獄であると同時に天国のような季節でもあるのだ。
それと夏休みもあるしなぁ。なんっと両極端なシーズンでござんしょう。
「ところでさぁ。秘蔵の写真があるんだけど……見てみない?」
そうチラチラ見せつけながら、レンが嬉しそうに言ってきた。
レンのやつ、こんなに嫌な性格だったかなぁ。いや、ノリがいいと言うべきなんだろうか?
「えっ、マジ? ホントか?」
「当たり前じゃん。僕がウソをつくとでも?」
「勿体ぶってないでさぁ、見せてくれよぉ。なあリョウ?」
「ああマサキ! 秘蔵って言われちゃあ気になるよなぁ!」
パシッ! と、リョウがレンから写真の入った封筒を奪った。その時のレンの驚きようときたらもう……ねぇ。
「あっ、コラ! 返せー!」
「誰が返すか。見ようぜマサキぃ!」
お互いに期待を寄せあいながら、その封筒を開くと――思わず目を見張るものが入っていた。入っていたッ
「おお、こ……これは、け、けしからんッ」
「ああ……まさしく『極上』だぜ」
それには水着姿で戯れるエリノ先生が写っていた。あまりの美しさにうっとりしてしまいそうだ。誰がいつ撮ったかは知らないが、すばらしい一枚だったよ。
「へへっ、すごいだろ。僕が撮ったんだぜ」
「ああ、スゴいやつだな君は……ほい」
レンに写真を返却した俺は、ちょっと面白いことを思い付いた。
「エリカぁー、ひそひそ……」
「うん、うん……えーっ」
俺に何かを耳打ちされたエリカは、眉をひそめて険しい表情を浮かべ――。
「あ、あれ? エリカさん」
「どうしたのん?」
「神戸くぅぅぅぅん……」
気のせいだろうか? 後ろで怒りの炎がメラメラと燃えていたような。どちらにせよ恐ろしいことに変わりはない。
「どいて! 氷室くん」
「は、はい」
すごい剣幕でそう言われたんじゃあ、あのリョウでもしっぽ巻いて逃げるしかないよねぇ。
さっきまでCOOLにすましてたのに、血相変えてこっちに逃げ込んできたよ。しかもすっかり腰抜かしてビビってら。
「こ、怖ええぇっ……」
「いいかリョウ、エリカは不まじめな人が何よりも嫌いなんだ。レンのやつはいつ何時もふしだらな上にあんなイヤらしい写真まで持っていた。あとは分かるよな……」
「ろ、ロシアの殺し屋ばりに、いやそれ以上に怖いなぁ……ひぃぃぃ」
おじいちゃんが言っていた。『この世で本当の意味で恐ろしいもの、それは女だ』、と。
レンの悲痛な叫び声とエリカのやるせない怒号が飛び交うなか、俺はリョウと一緒に隅っこでビクビクしていましたとさ……めでたしめでたし。いや、めでたくねぇー
保険医のエリノです。
妹は学究委員長をやっているんですよ~。両親もよく言うんですけど、自慢の妹です。
夏――ってことで妹と海に行ったんですけど、夏といえばプールの季節でもありますよね。
ツメが長いと壁に指がぶつかった時、すごく痛むんですよ~。この時期はこまめにツメを切ったほうがいいかも知れませんね。
……あっ、ごめんなさい。ちゃんと予告できてませんでした……。
次回、『11歳の夏』 えーっと、もう10年くらいまえだったかしら……お楽しみに!