#33
「ねぇママー、それにお姉ちゃーん……」
「なあに、ど〜したの?」
「お腹すいてきた……」
「あっ、そうなんだ! 実はちょうど、あたしもお腹減ってたの」
「私もよ〜。じゃあ、ごはんにしましょう」
なんてやり取りが双眼鏡の向こうで繰り広げられていた。
うん、そういえば、俺も腹が減ってきたぞ――?
「ねぇ、マサキ〜」
やがてママンたちが上がってきた。ママンが優しく俺に呼び掛ける。
「なんだい母さん?」
「そろそろお昼にしましょ〜」
「うん、分かった!」
砂にまみれたブルーシートを片付け、ママンたちについていく。
ママンの後ろにぴったりくっついてな。言っておくが、後ろから胸を揉んだりお尻を触ろうって魂胆じゃないからな!
「ここにしましょう〜」
そう言いながら、母さんはにっこりと微笑んだ。
海の家だ、今日のお昼はここで決まりっ!
ママンが決めた以上取り消しは効かない。ここで決まりと言ったら、決まりなのだ。
我が家の地母神様に逆らうなど、もっての他じゃい!
「いろいろあるねー。何にしようかな」
「おじいちゃんが言っていた。『空腹になったときのレストランや飯屋のメニューは、見るものを惑わせる魔性の女のごとき存在。惑わされず、逆に虜にしてやれ』……みたいなことをね」
「マサキのおじいちゃん、そんなこと言ってたっけ?」
しずか姉さんがメニューを見ながら、俺の渾身のギャグに対して鋭い刃物のようなツッコミを炸裂させた。
これは痛い、痛すぎる。血がどくどく溢れてそうなくらい痛かった。とはいえ、自ら痛い子アピールをしちまったようなものだ。ならば、先んじて受け入れねばなるまいっ
「ひどいやねえさん……」
あらら! 言ったそばからこれだよ。一体どの口がこんなことを呟いたんだ。
「ところでルミちゃん、何食べたいー?」
「あたし、焼きそばがいいなぁ。しずかお姉ちゃんは?」
「私はねー……うーん。カレーかなっ」
カレーに、焼きそば。
まさか自分が食べようと思っていたものが、こうも二人に先取りされようとは。
予想外だったぞ! どうすんの俺……どうすんの!?
「マサキは何にするのー? 早く決めてちょーだいね!」
「とは言われてもなぁ。うーん……じゃあ、俺たこ焼き!」
苦し紛れにそう言ってみた。
ちゅーか、なんだ。そう言わざるを得なかったって言うべきだろうか。
「じゃ、最後にさきこ姉さん。待ってました、今日の主役!」
「えっ! 俺じゃなかったの?」
またも口から余計な一言が――自重しろ、俺。身の程をわきまえよ。
そんな俺に、姉さんが耳打ちしてきた。
「……いい? 男が無理に出てくる必要はないよ。こういうときは、女に任せた方が上手くいくものだし」
「い、言われてみればそうだよね」
「だから、今日の主役はさきこ姉さんってことで。いいわね」
なんか論点がずれているような? まあいっか。世の中気にしたら負けだしな。
ちょっとぐらいおかしくたって、何も問題はねぇや。
「さぁさぁ、大トリ来ちゃったよ。さきこ姉さんは何にする?」
「わたし? 何にしようかしら〜……」
焦らし焦らされ……その答えはこうだった。
「わたしも焼きそばにするわねー」
「ルミちゃんと一緒ねー♪ じゃ、注文しよっか!」
――焦らすのが上手い人は、世渡りも上手いって誰か言ってたようなぁ!?
俺が生まれるときも、さっきみたいに父さんを焦らして……ゴクリ。
いや、何でもない。さあ、メシだメシ!
家族みんなでごゆるりと、届いた昼食を食べていると――。
「あっ、マサキくんも来てたんだ!」
「どうも~。みんな楽しそうですね~」
「え、エリカ。それにエリノ先生ッ!?」
なんてことだ。この白い砂浜に、天使が舞い降りた。
それも翼を失ったエンジェルが二人も――!




