#32
「きゃっほー!」
「やったなー。えい!」
「やだ、つめたーい!」
「あらあら、うふふ……♪」
「さすがママン、すげぇ揺れっぷり。だがしかし、しずか姉さんのメロンも捨てがたいなぁ。ルミはまだまだこれからなはず、やれば出来る子だから!」
乙女たちが水をかけあい、さざ波が揺れる。更に胸が大きい人は胸も揺れる。
このとき俺は浜辺で肌をこんがりきつね色、いや小麦色、いやいやあめ色に焼いていた。
そしてシートに寝そべりながら、揺れ動く波と激しく振動する姉さんと母さんのボインを眺めていた。
早くポロリしないかなぁ、なんて無粋なことも考えていた。
だって男の子だもの、少しぐらいスケベでもいいじゃない。
何が悪いの? 男が自分の気持ちを押さえてどーすんの。
俺なら本能に従順忠実にするよ、だってそれがおとこのサガだから。
つまり――亀仙人は偉大だったってことだ!
「にひひ……おじいちゃんが言っていた。『女の乳や太ももを見て鼻血を垂らすも垂らさないも、その男に権利がある』……ってなぁ」
そういうことなので双眼鏡は片時も離すことは出来ない。
え? ご飯のときはどうするかって? そんな無粋なことは聞かないでくれたまえよ~。
「おーおー、そっか。……お前の爺ちゃんスケベだなぁ」
聞き慣れたこのよく言えば清涼感のある声、悪く言えば薄っぺらでチャラい喋り方の声――。
まさかと思い、お隣のシートにいるやつの顔を見ると……!
「りょりょりょリョウ!? お前なんでここにいるッ!?」
「オレも水着のねえちゃんを拝みに来たのさ……言わせんなよ、恥ずかしい」
「へぇ。貧乳好きのロリペド野郎が、珍しい」
「うるせー! ボインはお前だけのもんじゃねえんだ。たまには巨乳でハッスルさせろやァァァ!」
「黙れヒンニュー教めがああああ! お前に巨乳はもったいない。つるぺたで十分じゃボケがぁ!」
その場の勢いで乱闘が始まった。
やがてそれは巨乳派vs貧乳派の、壮大で世界一ショボい小論争へと発展する!
「はいはい、ケンカはそこまで」
――かに見えた。
まさかの仲裁役が現れ、事なきを得た。
「……ん?」
「どうしたの? 僕の顔に変なものでもついてる?」
「いや、違う。どこかで見たことあるような、ないような……でも、見ず知らずの人が俺らの喧嘩をみすみす止めに来るはずはないし」
「言われてみればそうだよなぁ……」
「きゅ、急にどうしたんだよ。僕たち、友達じゃないか」
「えーっ、友達? 今日はじめて会った僕らがあなたとですか?」
いきなり見ず知らずの人から友達と呼ばれても、こっちとしては判断に困るっていうのが正直なところ。
――っていうのは、ウソ。彼は紛れもなく俺の友達なんだけど、だからといって普通にあいさつしてはつまらない。
だからこうやって、敢えてからかってやっているという訳だ。訳ありありなのよ。
「――ん? いや待てマサキ、そう言い切るにはまだはやいぜ……。俺、お兄さんのお顔をどっかで見たことあるよ。テレビで」
「えっ、マジ? ホント? どんな感じだった?」
「確か、有名人だったような気がするぜ」
リョウが珍しくこっちのノリにあわせたぞ。
さて、あとは彼に任せて、俺は引き続きボインを拝もうかね。ふひひ
「有名人? ぃやったー!」
「でもあんた、不倫して話題になってたぞー?」
「な、なんだって? まだそんなトシじゃないのに! うわーん」
後ろからレンの叫び声が聞こえた。
浮かぶ、浮かぶぞ。あいつが苦悶の表情を浮かべている姿が――。
「お母さんおっきーい!」
「そうかな〜。しずかちゃんの方が大きいんじゃないかしら」
「うん、よく言われる。けど、さきこ姉さんほどじゃないヨ」
聞けば聞くほど唾をごくりと飲んでしまう、渚のガールズトーク。
いや、レディーストークだろうか? どちらにせよ、我々の業界ではご褒美です。
ちっぱいが大きなおっぱい同士に挟まれれば、きっとご利益もらえるさ。
君は将来大化けするぞ。がんばれ、ルミ。我が妹よ。お兄ちゃん、応援してるからな。
「萌えるなぁ。萌えるーわ。ホント萌えレベル高いわ、百合ってのは」
「へへへ、そうだろー?」
そんなに一緒にボインが見たいのか、隣にリョウがやってきた。
いつものクールなお顔が台無しなくらい、下品ににやけていた。
「もしかしてかまってほしいの? ったく、しょうがねえなぁ……ところでレンは?」
「あっち見てみな」
するとリョウが岩場を指差した。
そこを向いてみると、岩陰でレンがうずくまってどんよりと落ち込んでいたのだ。
「いじられたっていいじゃない。少しくらいからかわれたっていいじゃない。だって人間だもの」
気のせいか、文末に『れん』と印鑑が押されたような。
なんか可哀想に思えてきたが、とりあえず今はそっとしといてあげよう。
あいつのことだ、またすぐにでも元気になるだろう。