#31
――そんなこんなで俺達は海水浴へ行くことになった。
無論、気分は上々だ。場所は和歌山の辺りで、なんでもそこはマンボウで有名らしい。
もちろん車に乗っていくのだが、残念ながら父さんだけ仕事で行けないのだ。もちろんほかの家族は車の運転なんちできません。じゃあ、誰がするのか? それなら今に分かる――。
「ヤッホー! みんな、久しぶりねぇ。元気してた?」
「こっちこそ。しずか姉さん!」
彼女は親戚の姉さんだ。名前は守山しずかという。
守山というのは、母さんの旧姓だ。母さんとは年が離れた姉妹に当たる関係らしいが、その他はあまり分からない。また今度聞くとしようかね。
「あたしならバリバリ元気だよ!」
「私も元気ハツラツよ〜」
「そっか。あれ、カツヒサさんは?」
「ゴメンね〜。今日お父さんだけ仕事なの」
なぜ父さんがいないのか、その理由を母さんが簡単にしずか姉さんへと説明してくれた。
事情を聞いた姉さんは、快く車に乗せてくれた。ディープブルーの車体がカッコいい、
五人乗りの標準的な自動車だ。シートベルトをしっかりしめてと言われたので、言われたままにきっちりとしめた。これで安心! と、思いたかったが――。
「うおおおおっ! なんか燃えてきたぁぁぁぁぁあああ!! マッハで振り切るわよー!!」
「げっ、姉さんがヒートアップした!」
「うそ、お姉ちゃん!?」
「あらあら、すご〜い。ジェットコースターみたいねぇ」
戦慄を覚えるほどの超スピード、半端ないドライビングテクニック。
青い閃光が高速道路を駆け抜ける。違う世界に来たんじゃねえか、と、
一瞬だけ我が目を疑ったくらいすげえ光景だった。お陰で目が回る、回る、回る、回る、回って回って――。そうしているうちに、サービスエリアに辿り着いた。中くらいの規模で、休憩にはもってこいの場所だった。
「ふぅー、ちょっと飛ばしすぎちゃった。みんな、休憩してく?」
「す、する。ちゅーか、させてくり……」
「ほげ〜……」
「やだ……、みんな踊ってるわ〜」
「それじゃあ、休憩に決まりね。みんな降りましょ!」
降りて速攻トイレに駆け込む。もちろん男子トイレだ、野郎はおれ一人。
野郎ひとりに対して女が三人。――ん? これってハーレムじゃね? きっとそうだ。
周りには大中小ときれいに揃った女の人が三人。男がその中にひとりだけ放り込まれた。あとは分かるね? ああ、なんて幸せなのだろう。
そうしてトイレを出て、女性陣を待ってみるがなかなか出てこない。五分待っても誰も出てこない。もしや混んでいるのか? これは困ったなあ――。
「ごめん、お待たせーっ」
「遅いよ〜。もしかして混んでたの?」
「うん、そうなの。なかなか入れなかったのよねー」
そう不満げにしずか姉さんへ問いかけると、彼女の口から出た答えはYESだった。
「そっか。なあルミ、おもらしとかはしてないよな?」
「バカ! アニキに言われなくてもしないわよ! あたしだってもう大人だもん。するわけないじゃん、もう……」
ちょっとルミをからかってみた。けど、やらかした感が否めん。あとで謝るべきだろうか……?
そのあと昼食をどうするかについて話し合ったが、家族間会議の結果、海の家で食べることになった。そりゃ、そうだ。どうせ食べるなら海の家で食べたいよなぁ。さて、どんなメニューがあるんだろうか。そもそも海の家なんてあるんだろうか。ぐぬぬ、ワクワクが百倍になってて止まらねぇ。焼きそば食べたい!