表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

第9話 暴走した魔道具

(前から化け物じみてると思ってたけど、ここまでとは)


エカードは弱いが、それはあくまでクラフト家直系の基準であって、平均的な王国民としてはそれなりに実力があるほうだ。


四つ年下のレンナルトがいくら強くても、これまではそれなりに相手ができていたし、勝てないまでも考えなく打ち込んでくる剣を躱すことは簡単だった。


だが、いつの間にかレンナルトは常人の域を超えていたらしい。


(……もう、俺じゃ敵わない、か)


まともに相手をすることは諦めて、エカードは奥の手を使うことにした。


ポケットから取り出したのは、護身用にと魔道具師の友人からもらった、手の平サイズの小さな魔道具だ。


猛獣や魔物ですら生け捕り可能だというこの魔道具を使えば、さすがのレンナルトの動きもとめることができるだろう。


(ただ、ちょっと痛いかもしれない。……許せ、レン)


エカードは、素早く魔道具に自分の魔力を注いで起動させ、それをレンナルトに向かって投げつけた。


魔道具からバチバチと音を立てながら出現した光る球体は、瞬く間にレンナルトへ触れる。


途端、雷が落ちたような衝撃が走り、レンナルトの身体がびくりと跳ねた。


「ぐぁ……っ! ……う、うぅっ!?」


「しばらく身体がしびれて動けないけど、害はないから安心しろ。やり過ぎなんだよ、お前は」


この魔道具は、敵意をもって突進してくる相手の動きを封じてしまうものだ。


複数人相手だとあまり役に立たなかったり、犯罪者に悪用されると大変危険だという理由で実用化には至らなかったらしい。


地面に転がったレンナルトを見ながら、どうしたもんかとため息をひとつ。


ここで動きを止めただけでは根本的な解決にはならないことぐらい、よくわかっている。


(……ああ、そうだ。わかってんだよ。俺だってちゃんと)


へたり込んでいるアニカのほうへ視線を動かすと、状況をまったく理解できていなさそうな、ぽかーんとした顔でこちらを見ている。


「さっきは突き飛ばしてごめんね。怪我してない?」


「え? あ? ああ……、はい。……ん? あの、ちょ、あ、あれっ! あれええっ!」


歩み寄りながら聞くエカードの問いに、こくこく頷いていたアニカだったが、途中から見る見る表情を強ばらせ、慌てた様子でエカードの背後を指さす。


「…………、まさか……ね?」


嫌な予感がして振り返ると、先ほどまで倒れ込んでいたレンナルトが、歯を食いしばり、がくがく震えながらゆっくり上体を起こしているところだった。


猛獣ですら行動不能にするはずの魔力の光球が、わずかに押し戻されているように見える。


「う、うそだろぉ……?」


「ぐぉおおおおおおおおっ!」


レンナルトが雄叫びをあげた刹那、魔力の光球は悲鳴をあげるように軋み、その身体から弾き返された。


すさまじい威力をもった魔力の塊と化してこちらへ向かって飛んでくる。


(これ、やばいやつだ。暴走してるっ)


今まで感じたことのない恐怖に、エカードは次の行動を迷った。


そして、その迷いのせいで身動きが取れず、次の瞬間『しまった!』と思う。


エカードの真横をすり抜けた魔力の塊は、アニカのほうに向かってまっすぐ飛んでいく。


「アニカ、避けろっ!」


叫んだものの、アニカは微動だにしない。足がすくんでいるのかもしれない。


「――くそっ!」


エカードは魔術で魔力の塊の軌道をそらそうと、素早く指で術式を描き起動させようとするが間に合わない。


アニカが慌てて、腕で防御する態勢を取る姿が見えた。しかし、それであの魔力の塊から身を守れるとは思えず。


もう駄目だと感じたその瞬間――、魔力の塊はするりと霧散した。


同時に、ぞわっと肌が粟立つ。


「…………っ!?」


すぐにアニカは驚いた顔をしながら辺りをキョロキョロ見渡した。


そのあと、まるで空からなにか降ってきているのを確かめるような仕草で空を見上げ、両の手のひらを上向きにして、しきりに首を傾げている。


たぶん、アニカも、なにが起きたのかわかっていないのだろう。


「今のはいったい……」


まだ、心臓がばくばくしている。


(やばかった。間に合わないと思った)


落ち着こうと大きく息を吸い込んだとき、突然、頭にゴッとなにかがぶつかった。


「って!」


頭を押さえて振り返ると、マデリンデが恐ろしい笑顔を浮かべながら立っている。


その手には扇子が握られているから、魔術を使いあれで叩いたのだろう。


レンナルトはエカードより強く叩かれたようで、頭を抱えて唸っている。


子どものころよくこうやって叱られたが、まさか今になってこんな叱られ方をされるとは思わなかった。


(……なんていうか、懐かしさより、恥ずかしさが先に立つね)


そんなことを思いながら叩かれたところを手でさすっていると、マデリンデが美しい姿勢を崩さず、完璧な貴婦人の歩き方でこちらに近づいてきた。


「エカード。いったいこれはなんの騒ぎですか。説明なさい」


そしてよそ行きの口調でエカードに話しかけてくる。


その理由は、マデリンデと一緒にこちらに近づいてきた若い青年にあるのだろう。


(そこまでやるなら、息子を扇子で叩いちゃだめだよ母さん)


などと心の中で突っ込みつつ、


「お騒がせしてしまい、申し訳ございません。兄弟間の戯れが行き過ぎまして……。ところで、先ほど妹の危機を救ってくださったのはそちらの方でしょうか?」


マデリンデに合わせて貴族らしく振る舞ってみる。


ところどころ地面がえぐれた草ぼうぼうの中庭で、扇子で頭を叩かれた男が今さら取り繕ったところで相手の印象は変わらないだろうが。


「ええ。危ないところだと思いまして」


やはり、肌が粟立つあの異様な感覚は、この男が放った魔術のせいか。


(……暴走した魔力を、一瞬で霧散させられるなんて)


エカードは内心で息を呑む。


柔和に微笑む青年は、レンナルトと変わらない年齢に見える。


それに、夜の訪れを告げるような髪色、赤みかがった不思議な瞳の色。


このタイミングで来訪してくる者なんて、ひとりしか思いつかない。


――これが、当代のバイスハイト特例伯爵か。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ