新刊が入荷するそうです
「どんな本を増やすんですか?」
「世界ごと住人を何人かそれぞれ抽出して、その者の人生を綴ったものじゃ。世界に対する不満や好きなところなどを書くことで、あいつらのやる気を引き出そうと考えてのう」
「ここは神様の『罪』の本ばかりですから、神様は喜ばれますね」
「だろう? 良い考えだと思ったのじゃ」
近所のおじさんみたいな大神様は、くふくふと満足げに笑う。
今まで、本が増えることはあまり嬉しいことではなかった。この図書館にある本たちは、神様たちが創った世界の失敗談が綴られているから。本の数だけ、失敗に終わった世界がある。見ていて気持ちの良いものではないし、新刊が増えるたびにうんざりする。正直言って、本は増えて欲しくないのだ。
でも、今度から作られる本たちは良い物のように感じる。同じような罪を重ねないように本を読む神様たちに、希望の光を与えることができるんじゃないかと思うんだ。
「では、わしはこれで。近々、本を入れるからよろしくな」
「あ、大神様」
この場を去ろうとする大神様。聞きたいことがあった私は、慌てて大神様の衣をぐいっと引っ張る。すると、大神様は前へつんのめった。あ、ごめんなさい。
「年寄りを転ばそうとするなんて、なんて酷い若者じゃ」
「神様に年齢なんてないでしょ。ねぇ、大神様。大神様は、私がなんで転生したのか知ってますか?」
私がこの世界に転生した理由。
神様になれなかった存在に転生し、ここで司書をやっている理由。その経緯すべての記憶が、頭からすっぽりと抜け落ちているのだ。
「……そうだな」
私の問いかけに、大神様はヒゲをゆっくりと撫でた。視線を上の方へずらし、何やら考え込んでいる。私は、その口から発される言葉を今か今かと待ち侘びた。
「それは、わしには答えられぬな」
「そんな」
「まぁ、のんびり過ごすと良い。ここは、ユイにとって生きやすい世界じゃ」
大神様には答えられない問い。つまり、大神様は『答え』を知っている。
それに気付いた瞬間、ぞっと背筋が冷たくなる。答えが近くにあるのに、それを知ることができない。それはきっと、私には言えない理由があるから。
なんで、教えてくれないんだろう。胸の中で疑問がぐるぐると駆け巡る。転生した理由なんて、すぐに教えてくれそうなのに。どうして、誰も彼も隠したがるのだろうか。
「神は嘘を吐かない。でも、言えないことはあるんじゃよ」
大神様はふっと微笑んで、私の頭にぽんと手を置いた。見上げれば、その笑みは柔らかくて朗らかなものだった。不安な夜に、ふとほっとするような。
「わしは、いつでもユイを見守っておるぞ」
そう言って、大神様は姿を消した。残されたのは、大神様のぬくもりと香りだけ。清らかな森のような香りに包まれて、私はただ青い月を見上げた。




