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本日の新刊はこちらです

 司書の仕事は楽しかった。好きなことを仕事としてできるという環境は、大神様が与えてくれた贈り物だろう。あの方は厳しいけれど、情を持った神様だ。レンみたいに神様に転生しなかった私を、神界から追い出さずに図書館に置いてくれたのだから。


「おはようございます」


 透明な朝日が、ステンドグラスを通り抜けて鮮やかな光となる。本棚に並ぶ本たちも、背表紙を向けて誰かに見つけられるのをそっと待っていた。今日はなぜだか、本の匂いが少しだけ重たく感じられるけれど。

 変わらない、神界での日常。けれど、ひとりの神様でそれはがらりと変わった。


「あ、あぁ。おはよう」


 やって来た神様にあいさつをすると、なんだか戸惑っているような感じがした。目を合わせると、すっと逸らされる。あいさつもそこそこに、神様は本棚の奥へと消えてしまった。なんでだろう。避けられているようでモヤモヤする。まるで触れてはいけないものをみるような視線に、私は胸の奥がざわついた。


(今までこんなことはなかったんだけど)


 落ち着かない気持ちで、カウンターの椅子から立ち上がる。乱れた服をそっと直して、新刊を置いている本棚へと向かった。

 世界が創られると、必ず本はここに並ぶ。大神様が届けてくれて蔵書となることが、この図書館の決まりだった。


「なんか、いつもより多いような……」


 普段は多くても五冊程度なのに、今日は十冊くらいもあった。それぞれ重厚な表紙を付けられ、分厚い紙が綴じられている。その多さを見て思い出したのは、転生したばかりの日。空から降ってきた本たちは、大神様によって落とされたものだった。

 新刊は、分かりやすいように置いた方が神様たちの目に留まりやすい。神様たちにとって、新刊はこれからの世界創りの参考になるものだから。例えどんな絶望の世界でも、読んでおくべき本ではあるのだ。


「やぁ、ユイちゃん」


 ふと声をかけられて、心臓が跳ね上がる。本に伸ばしかけていた手をぴたりと止め、ゆっくりと振り向いた。こんな落ち着かない朝に、驚くような声のかけ方をしてくるのは、どこの神様だろうか。


「びっくりさせないでください、ノクティア」


 そこにいたのは、『星夜界』を創った神様だった。陽が昇らないで夜だけが支配している世界は、主に吸血鬼が住んでいる。

 吸血鬼は、陽を嫌い、夜を好む。ノクティアは、そんな吸血鬼たちの考えを汲み取って星夜界を創り出した。けれど、「嫌いなもの」を排除して創られた世界は、いずれ滅びへと向かっていく。嫌いなものも己を形作る要素であり、それを強制的になくされてしまったら生きる目的がなくなってしまうから。

ノクティアは、それを失敗だとは言わない。ただ、星夜界は今日も静かに終わりへ向かっている。


「仕事は終わりですか?」

「うん。それより、ユイちゃん」


 ノクティアは、星が浮かんでいるような漆黒の瞳をじっと私に近づけてきた。瞳の向こうで、私が困惑しているのが分かる。


「元気?」

「げ、元気ですよ?」

「それなら良かった」


 ふっとノクティアは微笑んだ。私から顔を離すと、まとっていた黒いマントをぱさりと翻す。黒い髪をかき上げると、私にくるりと背を向けて歩き出した。

 なんの問いかけだったのだろうか。今日は、不思議なことばかり起きている気がする。静かな図書館に、自分の鼓動だけがうるさく鳴り響いた。


「……鼓動は、ちゃんとあるね」


 その音を拾い上げたかのように、誰かが囁いた。

 見れば、別の神様が図書館に入ってくるところだった。大きな白銀色の鎧を着ている、『機鋼界』という歯車と鋼鉄で創られた世界の神様。彼は私をじっと見つめ、鎧で覆われた指を私の心臓に差し向けてきた。


(大神様に、なにかあったのかな)


 やはり、なにかがおかしい。得体の知れない引っかかりが、私の中でぐるぐると渦巻く。神様たちは、いつも優しくて会話がぽんぽんと弾む。それなのに、神様たちはどこか揃って距離を取っているように感じた。なにかを知っているけれど、口にはできないような、そんな空気で。


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