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本を投げてはいけません


 神様の図書館は、閉館しない。誰でも自由に利用できて、いつでも入ることができる。ただ、貸出はしていない。神様たちは、図書館で本を借りたいと思っていないようだから。

 図書館がある場所は、神殿の隣。神様たちがいつでも来やすいように作られている。


「ユイちゃん。きちんと休んでる?」


 朝日が昇って一番の来館者は、綺麗な女神様だった。金色の髪を優雅になびかせ、花の冠を頭に乗せている。

 神様には、名前がない。だから、神様ではない私が彼らに名前を付けていた。女神様の名前は『フローラ』。花のようにたおやかで美しい彼女に、ぴったりな名前だと思ったから。


「休んでますよ。この世界は飲食しなくてもいいから、その辺で適当に」

「それはそうね。神になれなかった転生者だから、この世界に馴染めていないと思ってたわ」

「意外と早く馴染めました。レンが色々と教えてくれたので」


 レンが、神様として教えてくれたこと。この神界は、疲れや空腹を感じない。ただ、酒だけは存在する。それに、神様たちは年を取らない。何百、何千も生き、永遠をここで暮らすのだ。

フローラは、『常花界』を創った神様。常に花が咲き、その花は枯れることなく永遠に咲き続ける。しかし、この世界の詳細はこの図書館に収められていた。


「常花界の様子はどうですか?」

「失敗作よ。大神様に怒られてしまったわ」


 そう言って、フローラは肩をすくめた。

 近くの本棚へ行き、一冊の本を手に取る。黒がかった、深いローズピンクの装丁。質の良い紙は、分厚く綴じられていた。


「花にも『枯れる』という選択肢を与えた方が良いと、大神様から言われたの」

「なるほど」


 ローズピンクの本には、『常花界』という文字が書かれている。輝く金色の文字が表紙を飾っているけれど、なんだか寂しそうな瞬きを繰り返す。フローラがページをめくるたび、ぱらぱらと紙がこすれ合って小さな音を響かせた。

 きっと、この世界は絶望を感じているのだろう。誰にも助けを呼べず、孤独な地で。枯れるという選択をできない花たちは、ただ咲き誇ることしか選ぶことができない。


「こんな失敗作、本にされたくなかったわ」

「あぁ、投げ捨てないでください。そんなことばかりしているから、大神様がこのような図書館をお作りになったんでしょう?」

「他の世界のものはいいのよ。私のだけは、蔵書にしてもらいたくないの」

「わがまま言わないでくださいよ」


 まったく、神様たちは自分本位なんだから。神様って、もっと威厳があって厳しい方だと思っていた。けれど、これではただの子どもだ。私はフローラが投げ捨てた本を拾いながら、途方に暮れる。

ずしりと重いその本は、私の手の中で控えめに煌めく。終わりを待つ小鳥のように、静かにその時を待っていた。

 この本に、終わりはない。フローラが『永遠の世界』を創ってしまったから。


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