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この本はどちらのものでしょう?

 お、重い。レンがとんでもなく重い。

 まったく起きる気配のないレンを、ずるずると引きずっていく。目的地は、図書館の中の休憩室。私が良く使っている、寝たり食事ができたりする場所だ。


「本当、神様って気ままなんだから」


 ようやくたどり着いた、図書館の休憩室。置いてあるソファに、レンをどさっと放った。神様たちは風邪など引かないが、このまま放っておくのはなんだか気が引ける。備え付けのクローゼットからブランケットを取り出し、レンの体にそっとかけた。


「ん?」


 ふと、レンの衣から何かが覗いているのが見えた。何だろう、本みたいだけど。見てみたい好奇心が、罪悪感に勝ってしまいそうだ。私は、そっとその本に手を伸ばした。


「ううん……」


 本に手を触れた瞬間、レンが声を上げて動いた。突然のことに驚き、私はバッと本から手を離す。レンは起きていないだろうか。心臓がバクバク鳴っている中、おそるおそるレンの顔を覗き込む。


「ユイ……。かわいいよ、そのワニ……」

「何の夢を見てるのよ」


 レンは、夢を見ているようだった。訳の分からない寝言を呟き、寝返りを打つ。その拍子に、本がすっと転がり落ちた。

 床に落ちそうになるのを、さっと手を伸ばして阻止する。とさ、と私の手の中に収まったのは、紫色の本だった。


──あのときの本だ。


 表紙に書かれた、『Sumire』という本。大神様が新しい形態の本を作り、図書館に納めてくれた日に、レンが咄嗟に隠した本だった。

 あの日、この本を広げた私に現われたのは、真っ白い世界で誰かが懇願している物語。誰かが、一生をかけて祈った願いが込められているんだと思う。


「……レン」


 本を手にしたまま、レンの名前を呼ぶ。しかし、レンは起きる気配がない。幸せそうに眠り、「そこのロバは、ユイの……」とよく分からない夢を見ている。

 この本を読むのなら、今がチャンスだ。私は、その本をそっと開いた。



『幸せになりたい』

『──にとって、幸せってなんだ?』

『そうだなぁ。──と一緒にいることかな』


 乳白色の世界。

 誰が話しているのかは分からない。言葉が、その世界にゆったりと浮かんでは消えていく。霧が目の前を覆い、声の主を捉えることができなかった。

 この人は、どんな一生を終えていくのだろう。幸せとは何かを問いながら、命を消していくのだろうか。


『どこに行っても、一緒にいて欲しい』

『じゃあ、僕がどこでも迎えに行ってあげ』


 そのとき。


──プツン。


 急に言葉が切れた。

目の前が暗くなり、霧すらも把握できなくなる。



「あれ?」


 突然、本が閉じられた。それによって、私の意識は現実に引き戻される。

 なぜ本が途切れたのだろうか。これは、誰かの人生を書いた本。終わりのエピローグ部分は、その命の終わり。

 そこまで考えて、ハッとした。心臓がぎゅっと冷え、嫌な汗が背を伝う。

 本が最後まで続いていなかったこと。エピローグはないのに、途切れてしまったこと。

 まさか、この『Sumire』という人生は、終わっていないのに終わったことになってる?

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