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報告は資料に残しておきましょう

『──信号なし!』

『早く、──を!』


 怒鳴る声。

 慌ただしく動き回る足音。

 これは、なんだ?



「ユイちゃん!」

「え?」


 ハッと我に返る。目の前には、ノクティアの顔があった。私の肩を掴んで、焦ったような表情を浮かべている。

 あの日、『Sumire』という本を読んだときに、レンが私の顔を覗き込んでいたみたいに。


「大丈夫?」

「……うん」


 大丈夫じゃなかった。心臓はバクバク言っているし、頭の中は真っ白だ。何が起きていたのか、自分がどんな状態だったのか。それがまったく分からない。


「きっと、転生の記憶が戻り始めているんですよ」


 ソラさんが、真面目な顔で言った。

 いつの間にか置いていた紅茶のカップは、中身は半分ほど減っていた。ソラさんは膝の上に手を置き、じっと私を見つめてくる。


「記憶というものは、何かが引き金になるものです。小さな疑問が、大きな恐怖へと変わります。それを耐えて潜り抜けた先に、きっと答えがあるでしょう」


 小さな疑問。

 転生した理由、『Sumire』という本、戻りかけている記憶。

 そして、私は本当に転生したのか。


「同じ転生者として、いつでも力をお貸ししますよ。無理しない程度にがんばってくださいね」


 ソラさんは、あたたかい言葉をかけてくれた。

 けれど、私の心はどんどん冷え切っていった。胸の中にあった小さなわだかまりが、大きな懸念へと変わっていく。


「……レンと話さなきゃ」


 レンと話すべきだ。

 何かと忙しくしているレンは、休んでいる暇はない。転生して間もない新人神様だから、仕方ないことだと思っていたけれど。


──それすらも、疑いたくなっちゃう。


 忙しくしているのは、私と話さないようにしている?

 私が、何か気付かないように、日々の会話さえも制限しているの?

 怖くてたまらない。

 震える手で紅茶のカップを取り、口を付ける。ソラさんほどではないけれど、砂糖を入れておいたはずの紅茶。それは、何かを示すように苦々しく感じた。





「どうだった?」


 星夜界から帰ってきたときには、既に神界は陽が傾いていた。見慣れた光景にほっとしながら、問いかけてきたノクティアを見る。


「色々、考えさせられたよ」

「僕、ソラのこと気に入ってるんだ。だから、この世界に転生させたんだよね」


 ノクティアは、頭の後ろで手を組んだ。陽を眺め、それから何かの力を貰うかのように目を閉じる。その横顔は、ただの青年のように見えた。


「ソラは違う世界の住人だったんだけどね。死者の世界に送るには惜しい存在だったから、星夜界に転生させたんだ」

「転生するのって、その世界の神様が決めるんですか?」

「基本的にはね。だって、神様だもの」


 じゃあ、私が神界に転生したのは大神様の計らいなのかな。

 見上げた青い月は、陽に照らされて不思議な色を作り上げていた。

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