気分転換も必要です
辿り着いたのは、街灯に照らされる一軒のカフェ。テラス席にもお客さんが座っていて、なかなかの人気店のようだ。
カフェに入ると、やっぱり店内は薄暗い。でも、その雰囲気が似合うような内装と、星をイメージしたスイーツがずらりと並んでいた。
「ごゆっくりどうぞ」
私はケーキ、ノクティアはスコーン。それぞれ頼んだものが、吸血鬼のウェイトレスさんによって運ばれてくる。スイーツと一緒に頼んだ紅茶が、ほこほこと湯気を上げた。
食べてみて、そう言われて添えられていたフォークを手にする。白いクリームの上に、星座のように並ぶブルーベリーたち。つやつやとしたそれを食べるのは気が引けたけれど、そっと掬って口の中に入れた。
ブルーベリーの甘酸っぱさが、クリームの甘さと混ざり合って良いバランスになる。これは、飽きない美味しさだ。
「美味しい」
「ね、いいでしょ。ここは僕のお気に入りなんだよ」
ノクティアもスコーンを口に運びながら、にこやかに微笑む。こんなに美味しそうに食べている青年が、実はこの世界を創った神様だと誰も思わないだろう。これは、私だけが知っている秘密なんだ。
「なんか、久しぶりに食べ物を口にした気がします」
「神界は必要ないからね。だから、ユイちゃんを誘ったんだよ」
「え?」
そう言って、ノクティアは優雅に紅茶のカップに口を付けた。一口紅茶を飲むと、ゆっくりと顔を上げる。その黒い瞳には、穏やかな光が宿っていた。
「美味しいものを食べて、綺麗な景色を見る。何気ないことが、悩みの解決になるんだよ」
確かに、そうかもしれない。
曖昧な前世の記憶の中に、同じようなことを言っていた人がいた気がする。あまり食べ物を口にいた記憶はないけれど、「気分転換は大事だ」って言っていた。
──ね、少し外に出よう。
柔らかい声が頭の中を反芻した。
これは、誰の声だろう。私に向かって微笑んでくれているけれど、その声の持ち主は分からなかった。
「それでね、ユイちゃん」
ノクティアの声に、ハッと現実に引き戻される。見れば、ノクティアが頬杖をついて私を見ていた。
「お出かけをしようって言ったのは、これが目的じゃないんだよ。会わせたい人がいるんだ」
「……さっき言っていた『待ち合わせがある』っていうのですか?」
「正解。きっと、ユイちゃんは喜ぶと思うよ」
そのとき、カランコロン。
カフェの扉に付いている鈴が、来客をお知らせした。ウェイトレスさんが迎えたけれど、来客は「待ち合わせです」と言ってフロアを見回している。
「こっち」
突然、ノクティアが来客に向かって手を挙げた。すると、その人はこちらに向かってくる。
大柄で、長髪の吸血鬼。黒いマントを羽織っていて、その口からは尖った歯が覗いている。そして、何より目を引くのはその高身長。あまりの大きさに、思わずぽかんとしてしまう。レンも高身長だけれど、それ以上の高さだと思う。
「紹介するよ。吸血鬼のソラさんだ」
「どうも」
ノクティアから紹介を受けたソラは、低い声でぺこりと礼をする。私も慌てて礼をしながら、ノクティアを見た。この人と待ち合わせていたって、なにか特別な事情でもあるのだろうか。
「座って、ソラさん」
「失礼します」
「えっと……?」
椅子に腰かけたソラに、私はいきなりのことで戸惑う。どうしたら良いのか分からずそわそわとしていると、ノクティアが小さな笑みを浮かべて言った。
「ソラさんはね、転生者なんだよ」
「えぇ!?」
て、転生者!?




