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本日の司書は代理の者です

 守りたかった。

 そのためには、何でもするという決意があったのだ。



「ねぇ、ユイちゃん。僕の世界に来ないかい?」


 そう提案されたのは、ある日の図書館。いつものように新刊を整理していると、ふと現れたノクティアが話しかけてきたのだ。


「えっと……?」

「安心しなよ。一番治安の良い星夜界に連れて行くからさ」

「な、なんで急に?」


 神様は、基本的に自由気ままだ。だから、突拍子もないことを突然言う。そんなノクティアの提案に、私は目を見開いた。


「最近のユイちゃんはずっと悩んでるでしょ。少しは気分転換した方がいいよ」

「名案だな」


 これまた急に現れたのは、機鋼界(きこうかい)の神様であるガルムだ。全身を覆う鎧は、中世の騎士みたい。兜から顔をぱかっと覗かせ、たくわえたヒゲを見せながら口角を上げる。


「せっかく神界に来たんだ。自由に遊んだら良い」

「私には司書の仕事が……」

「別に、すっといなくても良いじゃないか。ここはガルムに任せて、僕らは出かけようよ」


 いったい、誰のおかげでずっと図書館にいると思っているのだろう。私が図書館好きなのはもちろんそうだが、それ以上に利用マナーの悪い神様たちを監視するために常駐しているのである。自分たちの利用マナーのせいだとは思っていないんだろうな。迷惑な話だ。


「ほら、ノクティアと行っておいで」

「良いですか、ガルムさん。利用マナーが悪い神様には注意するんですよ」

「ほいほい」

「……代理司書も、マナーは大切にしてくださいね?」

「も、もちろん」


 信用できない!

 にこにこ顔で軽い返事をしてくるガルム。ぐいぐいと腕を引っ張ってくるノクティア。図書館を惜しむ暇なく、私は外へと連れ出された。





 神界は、不思議なところだ。天と地の境目はなく、雲は背丈の高さに浮かぶ。地は草木ではあるけれど、反り立つ崖の下を覗けば星が瞬いている。

 そして、朝でも夜でも青い月は頭上で輝く。


「行こうか」

「ちょっと待ってください。心の準備が……」


 そんな神界の中央に、ひとつの神殿がある。その広間にあるのが、銀色の器に入れられた水鏡。神様がそれに触れると、その神様が創った世界が映し出される。本当に幻想的なその光景は、いつ見ても興味をそそられるのだ。


「大丈夫だって。水鏡に飛び込むだけだからさ」

「だから、それが無理なんですって!」


 水が嫌いで泳げないのだから、こんな水鏡に飛び込むのなんてできない!

 私が首を振り続けていると、ノクティアはおもしろそうに笑った。


「死なないから大丈夫。ユイちゃんは半神だけど、寿命は永遠だから。不死だもん」

「そういう問題じゃない!」


 思わず声を荒げた。死ぬ、死なないの問題じゃない。好きか嫌いかの問題なのだ。

 この私の気持ちを分かってくれないノクティアは、水鏡に星夜界の姿を映し出した。夜が続き、建物には明かりが灯る幻想的な世界。心は惹かれるが、飛び込む勇気はない。だから、私は『お出かけ』なんて行きたくなかったのだ。


「時間がもったいない。さ、行くよ!」

「え、ちょっと待っ──」


 待って、そう言おうとした瞬間。ノクティアは私の手を握り、一気に水鏡に飛び込んだ。

 ノクティアの足が水鏡に浸かり、そこから勢いよく体が吸い込まれていく。それを同時に、私の体もノクティアに引っ張られて水鏡に引きずり込まれた。


「うわぁ!」

「あっはっは!」


 目の前の景色がぐるぐると回り、方向感覚も聴覚もなくなっていく。そんな中で聞こえてきたノクティアの笑い声が、ものすごく腹が立った。

 笑い事じゃないよっ!


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