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本の取り扱いには注意しましょう

「──、……イ、ユイ!」


 ふと名前を呼ばれた。

 ハッとすると、そこはいつもの図書館。ステンドグラスが、白い建物の内部を鮮やかに彩る場所。そこに、私は立っていた。

 誰かに肩を掴まれている。見れば、レンが私の顔を覗き込んでいた。


「レン?」

「どうしたの? 何かあった?」


 焦ったような顔で見つめてくるレン。肩を掴んでいる手は、少しだけ汗ばんでいた。どうやら、本の世界に入り込んでいたようだ。

 あの幻みたいなものは何だったんだろう。『助けてください』とか『私の命を捧げます』とか。神様に願うほど叶えたい望みがあったのだろうか。


「ごめん。この本に引きずり込まれたみたい」

「どの本?」

「これ」


 そう言って、『Sumire』というタイトルの本をレンに見せた。レンがその本に目線を落とした瞬間、ガッとそれを奪い取られた。目を見開いて本を見つめ、唇を噛んでいる。

 どうしたんだろう。この本がそんなに特異なものだったのかな。私は、そんなレンの様子をまじまじと眺めた。


「その本がどうかしたの?」

「……これ、読んだ?」


 レンは酷く焦っていた。瞳があちこちに動き、額には薄らと汗が滲んでいる。そんなに焦るなんて、この本は誰の人生なんだろう。

 もしかして、レンの大切な人なのかな。そう考えると、胸がチクリとする。前世でも、私たちは恋人同士だった。でも、この本は『Sumire』さんのものであって、私の名前『ユイ』は書かれていない。つまり、私の本じゃない。


「……そっか。私以外にもいたんだね」

「え? あ、違うって!」


 ズン、と気持ちが落ち込む。私以外にも大切な人がいたんだ。そう思うと、モヤモヤとした感情が胸の中を渦巻いていく。

 レンは、必死に弁解してきた。私以外に愛していた人はいない、私だけを愛していたんだ。そう言って、何度も何度も語りかけてきた。

 でも、一度渦巻いた感情は戻らない。小さな波となって、いつでも心に押し寄せる。終わりの来ない海の果てのように。 

レンは──神様は──嘘を吐かない。だから、信じられるはずなのに。


「……これは、僕が預かる。大神様に言っとくね」

「分かった」


 レンと目を合わせることもできない。

 目を合わせたら、何か言ってしまうかもしれなかった。レンを傷つける言葉を発してしまいそうだった。

 喉の奥がツンと痛くなって、息を呑み込む。堪えたはずの涙は、目尻に一粒だけ残った。



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