本は大切に扱いましょう
私は、なぜ転生したのかを知らない。
気が付いたら、神様の世界へと降り立っていた。
しかも、私は神様ではない。この矛盾を、誰かちゃんと教えて欲しい。
私が転生した日は、雨が降っていた。
大きな雨粒はドサドサと音を立てて地に落ちていく。
「なんで本なの!?」
雨の正体は、本だった。
……許さない。許されないことだ、これは。
こんなことは、本好きにとって非常に許されないことである。本を落とすなど、なんたる暴虐。この雨の先にいる人物を、殴ってやりたい。
「本は大切にしなさい!」
転生して初めて発した言葉は、それだった。
天に向かって苛立ちをぶつける。空には、優しいけれど残酷に見える青い月が私を見下ろしていた。
「本は、しっかり棚に戻してくださいね。それと、図書館は静かに利用しましょう」
ここは図書館。白い大理石の建物で、そこそこ大きい。窓には色とりどりのステンドグラスが嵌めこまれている。
この図書館は、小学校や地域のものではなく神様が利用する図書館だ。
「ユイちゃんは厳しいねぇ」
私が注意すると、ある神様は苦笑した。
柔らかい茶色の髪に、少しお腹の出ている神様。穏やかな顔をしているけれど、性格はかなり大雑把。読んだ本は戻さないし、知り合いの神様とは大声で話す。利用マナーがきちんとできていなかった。
図書館マナーを守れないなんて、言語道断。ここを利用するなら、きちんとマナーを守ってもらいたい。図書館は、私の心の休息地なんだ!
「今日、彼氏は?」
「仕事です。世界を創りに行きました」
「そうか。この図書館の蔵書が増えなければいいね」
蔵書が増えるということは、またひとつ、救われなかった世界が生まれるということ。この図書館で本が増えるのは、いつだって良い知らせではない。
「彼のことですから、分かりませんよ」
肩をすくめて、司書カウンターの椅子に身を沈める。本当に分からないのだ。彼は、神様らしく自由気ままに過ごしているのだから。
そんな様子を見ていた神様は、楽しそうに目を細めた。
「ユイちゃんが楽しそうで何よりだよ。彼も喜んでいるんじゃない?」
「はい」
「記憶は取り戻した?」
「……どこまで、ですか?」
神様の問いかけに、質問で返す。
思い出したようで、思い出していないような。
頭の中は、なぜだか霧がかかっている。思い出そうとすると、その霧が目先を覆っていく。だから、記憶を取り戻すのは難しかった。
「まぁ、いいよ。ユイちゃんが幸せなら、私たちは何も言うことはない」
そう言って、神様は微笑んだ。
この神様は、『魔法世界』という世界を創った方。大きな存在感を放つこの世界は、この『神界』でも話題のひとつだった。
「じゃあ、またね。明日も来るよ」
「はい、また明日」
図書館の扉を開き、神様は帰っていく。
そんな神様の名前は、『マギ』だ。私が名付けたことで、魔法世界では『マギ神』というものができたと教えられた。




