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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

優しい呪文

作者: ぶる

診断メーカーのお題で書かせていただきました。

「そうだ、彼に会いに行こう」で始まり、「それは優しい呪文」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字程度)でお願いします。


 そうだ、彼に会いに行こう。

 誕生日も近いし、彼の好物と花を用意して片道二時間の道のりをのんびりドライブがてら出かけよう。

 仕事で大きなミスをやらかしてへこんでいる僕を、きっといつものように優しく慰めてくれるはずだ。彼に会えたらきっとこの気持ちも晴れるはず。


 彼とは学生時代に知り合って、十年以上を一緒に過ごした。互いに社会人となり、忙しさにかまけて会う回数は減ったけれど、友情は揺るがないという自信があった。

 僕が、この邪な気持ちを告げたりしない限りは。


 ニ年前、彼は突然僕にこう言った。

「恋人を作れよ、俺なんかやめてさ」

 気づかれているだろうとは思っていた、でもそんなふうに突き放されるなんて。落ち込みやすい僕をいつも慰め、勇気づけてくれた彼の口からそんな言葉を聞くとは思いもしなかった。

「もう、そばにはいてやれないから」

 穏やかな笑みを絶やすことのなかった彼が、はじめて僕に見せる顔をした。

 こんなことになるなら、勇気を出して好きと言えばよかった。


 車を停めて、海を見下ろせる高台へと階段を登る。彼が眠る場所にお気に入りだった手作りのマフィンと、彼が好きだった花を供えた。

 スターチスの花言葉を知ったのは彼がいなくなってずいぶん経ってからのことだ。

「少し早いけど、誕生日おめでとう」

 いつも落ち込んだ顔ばかり見せてごめんねと呟くと、海からの暖かな風が吹いて僕の髪を揺らした。


『大丈夫』


 くせっ毛の僕の頭をいつも優しく撫でてくれた彼の声が、潮騒とともに聞こえた気がした。

 まだ、次の誰かを探す気になんてなれないけれど、いつかきっと、君より優しい人を見つけてみせるから。君の誕生日なんて忘れてしまうような恋を、きっとするから。

 それまでは、泣き言を言うだろうけど許して。

また、来るよ。君が褒めてくれたマフィンと、君の好きな花を持って。


『大丈夫、大丈夫』


 いつも穏やかに微笑んで君が言ってくれた言葉。

泣き虫な僕を支えてくれた、それは優しい呪文。

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