第31話「古竜vs異世界迷惑系配信者」
ヒロトは地に伏し、呻いた。感覚は麻痺し、視界が滲む中、脳裏に浮かぶのは“視聴者”の顔と、彼を支えてくれた数々のコメントだった。
「ほんと、意地はっちゃってさ。この世界がなんだっていうんだ?ゲームの中みたいなもんじゃないか。君だってやった事あるだろう?ゲームの世界で人を殺したり、街を破壊したり、あれと一緒さ」
「ちがう…!この世界の人達はちゃんと生きてる!」
「ダサい!エルフとかはべらせてキモすぎ。偽善者め」
「なんだとっ!」
「違う違う。俺の方のコメントの声さ。でも一理あると思うよ。君の行動はただの偽善だ。正義ごっこなんだよね。ま、どうでもいいや。もう、これ以上撮れだか無さそうだし…バイバイ」
そう告げると輝也は手を前に出し、強力な魔力をヒロトたちに向けて放った。
(ダメだ……ここで終わるのか……?)
――!
「《双重結界・展開!》!」
轟音とともに、まばゆい光がヒロトを包んだ。リュシアとミレリアの魔法障壁が、ヒロトの身体を守っていた。
「……ヒロトさん!大丈夫ですか!?」
「立て! おぬしは……皆の前で誓ったであろう!」
二人の声が、崩れかけた意識を呼び戻す。
そして――
「まだ終わっていないぞ!お前は、“誰かのために”を貫くのだろう?」
その声に、ヒロトは顔を上げる。
炎をまとう赤銀の鎧、肩を裂かれ血を流しながらもなお立ち続ける《烈陽の剣帝》――グラディウスがそこにいた。
「……なんで……」
「お前の背中に皆、希望をもらった。私も……その一人だ。単純に、お前のことが気に入ったのさ」
そう言って、彼は腰の剣を地に突き立てた。その刃は、揺らめく陽炎のように燃え、空間ごと熱を帯びる。
「この剣はな……元は“二本一対”のものだ。一つはリュシアに託した。今、君が手にしているものだ。そして今、もう一つも君に託す」
ゴウン――と何かが起動する音が響く。
ヒロトの前に、ウィンドウが開かれる。
《グラディウスとのコラボが確定しました》
《新スキル獲得:〈コラボリンク〉――一定以上の信頼関係が成立した相手と共闘時、認知の共有およびスキル継承が可能になります》
その瞬間、ヒロトの中に流れ込んでくる――戦場の気配、刃の重み、炎の意志。それはまさに、“グラディウスそのもの”の感覚だった。
右手に渡された長剣を握ると、さらに通知が表示される。
《スキル継承:烈陽・双燐舞/剛斬“日輪”》
「お前には、“未来を選ぶ”自由がある。だが自由は、責任を背負ったときにこそ意味を持つ。ヒロト……お前の自由をその剣で切り開け!」
ヒロトは歯を食いしばり、ゆっくりと立ち上がる。
「……ありがとう。でも、剣を渡してあなたは……」
「問題ない」
次の瞬間、グラディウスの全身が紅蓮に包まれた。
肌が割れ、鎧が砕け、炎が天へと昇っていく。その中から現れたのは――伝説に語られた古代種、“エンシェントドラゴン”。
炎翼を広げ、雷鳴のように咆哮を上げる。
「こっちの方が、慣れてるんでな」
《コメント:え!?グラディウスって竜だったの!?/やばすぎる/これはマジで神回……!》
「ヒロト、君のおかげでこの姿になれるまで力が戻った。礼を言う」
「ねぇ、もういいかな? さぁ、続きを始めようか」
輝也が空間を捻じ曲げ、戦場を再構築する。
「でもさぁ……ドラゴンとか、もう飽きたんだよね」
「そこらの竜と一緒にするなよ」
次の瞬間、天地が逆転し、圧倒的な光と重力が戦場を襲う。
それでも、グラディウスは――竜の姿で立ち向かう。
数秒が数分に感じるほどの激戦。リュシアが息を呑んで呟いた。
《コメント:グラディウスすげぇー!/いけんじゃね?/これが竜の力…》
そのコメントに答えるようにリュシア口を開く
「……あやつはただの竜ではない。世界の始まりに近き存在……伝説の“エンシェントドラゴン”じゃ。その認知の力は凄まじいものじゃ。奴がこの姿になるのを初めて見たがここまで凄まじいとはの…!しかし――」
グラディウスは悟っていた。
(……届かぬ。だが、“彼ら”ならいつか――)
「リュシア! 二人を連れて、いけ……人間界へ!」
「な、何を言っておる……わらわは残るぞ!」
「お前には、“導く責任”がある!」
竜の咆哮が戦場を裂き、その隙に《アグニレイド》が飛び立つ準備をする。
「乗れ! 今しかない!」
ヒロトは涙をこらえ、グラディウスを見た。
「……あなたは!」
「ヒロト。リュシアを頼んだぞ」
リュシアがヒロトを背に引き上げ、扉が開く。その優しくも重い一言に男の覚悟が全て込められていた。ヒロトはそれ以上、口を開く事ができなかった。
最後に見たのは――燃え尽きるグラディウスの背。
輝也の放つ光が、彼を飲み込もうとしていた。
それでも、彼は門を破壊する動作を止めなかった。
そして遠くに遠くに転送させる中ヒロトの脳裏にアラームが鳴響く――
《リンク切断:対象存在が確認できません》
《グラディウスとのコラボリンクは解除されました》
表示されたその通知に、ヒロトは唇をかみしめる。
だが――
手の中の剣は、なおも熱を帯びていた。
(……あんたの“意志”は、俺が受け継ぐ)
「あんたの守りたかったもの全て。絶対に……守ってみせる。俺の、この手で!」
そして、物語は人間界編へ――
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