第29話「統制の覇眼ゼルドラン戦・後半」
リュシアの認定によって共鳴を得た三人は、静かに、そして確かな決意とともに前を向いた。
ゼルドラン――《統制の覇眼》。魔界を支配する四大魔皇族の一角にして、新魔王から「共同配信者認定」を受けた絶対的存在。その覇眼は空間の理すら捻じ曲げ、あらゆる干渉を無力化する。
「よし、二人とも、いくぞ!」
「……我が覇眼の前に、何をしようと無駄だ」
空間が、揺れる。
魔力でも、剣でも、風でもない。ゼルドランの視線が走るだけで、すべてが“無”になる。
「くそっ……あいつ、強すぎる……!」
ヒロトの斬撃も、ミレリアの大火球も、リュシアの嵐すらも、まるで空間ごと歪んだかのようにゼルドランに届かない。
《コメント:攻撃が消える!?/空間ごと曲がってんのか!?/何も通らない……》
「これが……《統制の覇眼》……!」
ゼルドランは、静かに歩み出す。
「くだらぬ理想を掲げ、魔界の均衡を乱した罪人たちよ。我が正義で裁いてやろう」
だが、その前に一人の男が立ちはだかった。
赤銀の鎧に身を包み、炎のごとくなびく長髪――《烈陽の剣帝》グラディウス。
「お前の“正しさ”が、全てではない」
「……裏切り者が、まだ生きていたか」
「私は魔界のために戦ってきた。だがな、それは“誰かに言われたから”じゃない。“守りたい者がいたから”だ」
剣を構えるグラディウス。その刃には、炎のような魔力が宿っていた。
「私は今、魔界の未来のためでも、義務のためでもない。――自分で選んだ道のために、戦う!」
《コメント:グラディウスかっけえええ/これが自由の剣!?/推し変しちゃうかも……》
「リュシア、ヒロト、ミレリア。お前たちが信じた“自由”を、貫け!」
「わかってるよ、グラディウスさん……!」
「妾も、もう迷わぬ!」
「俺たちで、ゼルドランを超える!!」
三人と一人。炎と風と魔法と刃の共鳴が走る。
だが――
「無駄だ」
ゼルドランの覇眼が空間を歪め、攻撃を無効化していく。
(駄目だ……このままじゃ、また弾かれる……!)
《コメント:攻撃が当たらない理由、考察班たのむ!/死角攻撃はどう?/やっぱ、覇眼って“視覚依存”だよな》
(……そうか! やつの“正義”は、目に映る世界しか信じていない……!)
「グラディウス、奴の正面を抑えてくれ!俺たちは、あいつの“死角”を突く!」
「任された。貴様の“自由”を見せてみろ!」
グラディウスが駆ける。斬撃が覇眼の視線を塞ぎ、その間にヒロトが叫ぶ。
「ライブリンク、起動!視聴者の中で、誰か銃を使えるやついないか! 精密射撃の知識がほしい!」
《コメント:おう、任せろ。元・自衛官です。狙撃支援入る。》
リンク成功。
「……この視界、重心感覚……ミレリア、リュシア、準備はいいか!」
「うむ!」
「はいっ!」
《新スキル発動:“魔導変換”》
剣先に、異常な魔力が収束していく。銃身のように光を溜め、エネルギーが振動する。
「――この一撃は、未来を作る一撃だ!」
「ふん! そんな攻撃、かき消してやる!」
ゼルドランが振り返る。グラディウスが弾き飛ばされ、ヒロトに視線が向けられる。
「しまった!!」
その瞬間――ヒロトの剣から放たれた魔弾が、ゼルドランを打ち抜いた。
自由を信じる者たちの、祈りと覚悟の一撃。
《統制の覇眼》が、砕けた。
「……っが、あああああああっ!!」
ゼルドランが膝をつき、顔を歪める。
「なぜ……後ろから攻撃が……覇眼がきかん……!」
「オマエが見ていたのは幻だ」
「な、なに……?」
「私とリュシアさんの魔法、それに視聴者さんの知識を生かして、鏡のような幻影を作り出しました」
「そんな……幻想に……私が……!」
グラディウスがボロボロの身体で剣を構え直した。
「幻想じゃない。これは彼らが、それぞれの力を知恵を誰かの為に自分の意思で選び、手に入れた勝利だ。“自由”もそうだ。誰かに与えられるものじゃない。“選び続けること”なんだ。たとえ間違えても、踏み外しても、何度でも自分で選べる。それが――生きるってことだ!!」
最後の一撃が、ゼルドランを吹き飛ばした。
《コメント:やったああああ!/グラディウス最高!!/自由の勝利だ……!!》
だが――その勝利の余韻を打ち砕くように、空が裂けた。
転移門が、再び開く。
黒い空間から現れたのは――スーツ姿の日本人の青年だった。
「日本人……!?」
「初めまして。俺は、輝也。……新魔王、だよ」
彼は、倒れたゼルドランを一瞥し、つぶやく。
「もういいよ。つまんない、君」
次の瞬間、ゼルドランの身体が消えた。声も、痕跡すら残さず。
広場に、静寂が訪れる。
「あれが……新魔王……?」
ヒロトの胸が、凍りついた。
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ここまで読んでいたがありがとうございます。
高評価、ブクマ何卒よろしくお願いします。