第27話「異世界配信者、管制塔を占拠してみた」
夜明け前の地下都市。薄明かりの中、レジスタンスたちは慌ただしく準備を進めていた。
ヒロトは深呼吸し、剣と背負い装置を確認する。ミレリアは静かに頷き、魔力のリズムを整えていた。
「……準備はできてるな?」
そう声をかけてきたのは、グラディウスだった。赤銀の鎧に身を包み、かつて四大魔皇族の一角として名を馳せた男。今はレジスタンスのリーダーとして、カラドリアの希望を支えている。
「あぁ。こっちはいつでもいける」
「よし。作戦を確認するぞ」
グラディウスは地図を展開し、指を走らせた。
「俺は第一管制塔へ向かい、単独で制圧を行う。リュシアは門前の広場で陽動をかけ、敵の目を逸らす。その隙に――」
「お前たちは地下ルートを通って第二管制塔に潜入。塔内の制御装置を起動させろ。両塔が同時に稼働すれば門は開く。そして、門前でリュシアと合流して人間界へ戻る」
「了解!」
「注意しろ。塔の制御には時間がかかる。作業中に敵が気づけば、応戦は避けられん。それに…やつに気が付かれたら終わりだ。」
ヒロトは頷き、応える。
《コメント:サポートは任せろ/こっちまで緊張してきた/がんばれヒロト&ミレリア!》
「……頼むぞ、みんな」
そう呟くと、ヒロトとミレリアは薄闇の中へと消えた。
⸻
第二管制塔・制御室
陽動のおかげで最低限の戦闘で済み、ヒロトとミレリアは制御室への潜入と占拠に成功していた。
「よし、リュシアが派手にやってくれてるおかげで、ここまでは順調だな」
「でも、本当に動かせるのでしょうか……?」
「任しとけ!マルチライブリンク!」
「マルチライブリンク?」
「あぁ!複数人と同時にライブリンクできる。2万人突破した時に獲得してたみたいだ…。早速ですまねぇ、視聴者の中で機械に心得がある人、3人!協力してくれ!」
ヒロトが端末に手をかざすと、魔導装置が作動。同時にライブリンクとコメントフローが起動し、画面には無数の視聴者メッセージが流れ始める。
《リンク成立:白虎《エンジニア系YouTuber》/まる《ホワイトハッカー》/tanaka《OS開発者》》
《コメント:制御構造はマルチ層プロトコルっぽいな/装置全体が半自律系のコンピュータだ/応答遅延でループ起こしてる、コアから再起動だ》
「よし!頼んだ。他のみんなも知識貸してくれ!ここ、絶対にミスれねぇ!」
リンクが成立すると、ヒロトの視界に仮想HUDが展開され、異世界式のオーバーレイが現れる。回路図や操作誘導が次々と変換されていく。
「すげぇ……!現代の知識が、この世界の魔導技術に変換されて……使える!」
ヒロトは導かれるままに、制御盤を操作していく。一方、ミレリアは室外で警戒を続けていた。
「……何も来なければいいけど……」
だが、その願いは届かない。
「侵入者を発見!第二塔に敵影ッ!」
警報とともに、複数の機兵が塔内になだれ込んできた。
「ミレリアッ!」
「ヒロトさんは操作を続けてください!ここは私が――!」
ミレリアは矢のように飛び出し、魔法で敵を食い止める。だが、彼女一人ではあまりに数が多かった。室内へとなだれ込む機兵によって、じょじょに防衛線が崩れていく。
「くそっ、俺が行く!」
「だめです、ヒロトさんは今離れたら――!」
そのとき、視界にシステムメッセージが現れる。
《チャンネル登録者:30000人突破》
《新スキル獲得:「スキルシェア」――ライブリンク対象者と能力を一時共有可能》
「……スキルシェア……!」
ヒロトは一か八かでミレリアとのライブリンクを開いた。
「ミレリア!力を貸してくれ!」
「はいっ!」
《スキルシェア発動 → ミレリア》
ミレリアの手元にシステム音が鳴り響く。
《一次的にスキル能力をヒロトから受領しました》
「これは……!?」
ミレリアの脳内に制御装置の構造が流れ込んでくる。意味不明だった操作体系が、まるで手に取るように理解できる。
「いけます!ヒロトさん、こっちは任せてください!」
「よし、任せた!」
ヒロトは剣を抜き、機兵たちの前に躍り出た。
「悪いが、ここは通さねぇ!」
視聴者との共鳴で高まった剣術が、敵を次々と斬り裂いていく。
そして――
「起動完了!第二塔、制御完了です!」
「ナイスゥ!」
⸻
同時刻・第一管制塔
グラディウスは燃え上がるような太刀筋で敵を蹴散らし、制御装置の前に立つ。
「……通じてくれよ」
魔力を送り込むと、塔の中心が光に包まれた。
《第一管制塔、制御完了》
二つの塔が同時に起動し、魔導線が脈動を始める。
カラドリアの空に、巨大な転移門が現れる。
「……開いた!」
《コメント:うおおお!ついに人間界へ!/これでかえれる!/ラストスパートだ!》
だがその喜びは、次の瞬間かき消される。
門の中央、歪んだ空間から黒い波動が放たれた。
出現したのは――漆黒の軍勢と、それを統べる男。
「これは……!」
「……ゼルドラン……!」
漆黒の衣に金の文様を刻んだ男。支配と冷徹を体現するような魔皇族が、空間を踏み割って降臨する。
「門を開いたのか。だが無駄だ。門前の広場に来い……愚か者ども」
その一言に、空気が凍りついた。
――次回、魔界編クライマックス『ゼルドラン戦』へ続く。
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