第26話「異世界配信者、レジスタンスにあってみた」
レジスタンスの本拠地は、地下の廃駅跡を改造した隠れ家だった。天井の高い空間には魔導ライトが灯り、中央には円卓と魔力地図。周囲には装備庫や簡易ベッド、魔法陣の研究装置まで揃っている。
「……すげぇ、本当に地下都市みたいだ」
《コメント:やっぱ魔界って技術高くね?/オタクの血が騒ぐんだが/隠れアジト感たまらん》
「ここは、昔に一度滅びた街じゃ。妾が産まれるよりもっと前――人間の神と魔族の神が争った時代があってな。その戦火で地上の街が潰れ、上に新しい街を重ねたのが今のカラドリアじゃ」
リュシアの声に、どこか歴史の重みが混ざっていた。
「街の上に街……すげぇな」
奥では、グラディウスが部下と手短に言葉を交わしていた。そしてすぐ、ヒロトたちの前に戻ってくると、魔力地図を展開して指を差した。
「見ての通り、これがカラドリアの全体地図。そして……ここが“門”の座標だ。人間界に通じる次元門だな。現在はゼルドラン直属の機兵兵団が封鎖しているが、門そのものは生きている。条件さえ揃えば、通行可能だ」
「条件……?」
「門の制御は、ここと、こっち――二箇所の管制塔でなされている。両方を同時に起動しなければ、門は開かん」
「じゃあ、その塔を制圧できれば……!」
ヒロトが前のめりになる。
「その通りだ。だが、正面突破は不可能だ。ゼルドランの“統制の覇眼”は伊達じゃない。街全体の監視網と魔導ネットを掌握し、僅かな異常にも即座に武装兵が動く」
グラディウスは言葉を切り、奥の端末を操作した。魔力地図に一瞬ノイズが走り、やがて隠されたルートが浮かび上がる。
「俺たちがいるこの地下都市――旧カラドリアの遺構を通れば、門の真下に出るルートがある。ここを知るものは元々限られた人物しかいない。奴らに気づかれずに接近できる、唯一の手段だ」
「なるほどな」
「……けど、どうしてそんなルートを知りつくしているんですか?」
ミレリアが首を傾げる。
「ふふ、それはの……」
リュシアが口元を緩める。
「こやつ、四大魔皇族だった頃、よく地下ルートを使って自分の城を抜け出し、こっそり遊びに出ておったのじゃ!」
「おい!リュシア、それは今関係ないだろッ!」
《コメント:グラ様おちゃめか/これは……昔なじみの空気/慌てててかわいいw》
ちょっとだけ和やかな空気が流れる。
「……話を戻すぞ。問題は、同時に二つの塔を制圧しなければならない点だ。一方は俺が行く。制御経験もあるし、戦闘にも耐えられる。だがもう一方を誰に任せるか……」
「妾はのう……機械系はさっぱりじゃ」
「部下に回したくても、あれだけの魔導制御に対応できる奴はいない」
「……機械か。ん。まてよ。いけるかも」
ヒロトが呟いた。
「実は俺、異界の力を一時的に自分のものにできるんだ。前の戦いでも、元いた世界の剣士の記憶と技を借りてた」
「なるほど! だから急に“剣術経験者の太刀筋”になったのか」
「そう。で、俺のいた世界って、機械にめちゃくちゃ詳しいやつらが山ほどいる。そいつらとリンクすれば、いける気がする」
《コメント:キタ━(゜∀゜)━!/俺に任せろ!/異世界の機械も要領一緒なのかな?》
「ふっ、面白い。だが一つ忠告しておく」
グラディウスが真剣な眼差しで告げた。
「ゼルドランが来たら即撤退するこど。ゼルドランは、“空間制御”の異能を持つ男、元々厄介な奴に今や配信の力が上乗せさせている。戦闘向きではないなかったヴァリエラとは桁が違うぞ」
「……それでも、やるしかない」
ヒロトは拳を握りしめ、真正面から応じた。
「道がないなら作ってればいい。それが配信者ってもんよ!それに今の俺は一人じゃないしな」
「ふん……良い目をしているな」
グラディウスが小さく笑った。
「夜明け前に動く。今は休息をとり準備を整えろ。この作戦はなんとしても成功させるぞ。」
こうして、ヒロトたちは門を目指し、命懸けの奪還作戦へと踏み出した。
敵は、魔界でも屈指の支配力を誇る魔皇族。
だが、闇の中にも希望はある。
そしてそれは、誰かの“想い”が繋ぐ――小さな光だった。
――続く。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
ここで小ネタを
実はグラディウスが街に抜け出していたのはよく街にお忍びで遊びに来ていたリュシアに会う為なんです。
この二人の過去はなにかただならぬ関係がありそうですね。
次回もお楽しみに!
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