第24話 「城塞都市カラドリアに潜入してみた」
竜が風を切る音とともに、カラドリアの全景が見えてきた。
広大な黒壁の城塞都市。その外周には幾重にも巡らされた監視塔、上空には自律型の魔導ドローンが飛び交い、まるで敵意そのものが街の皮膚を覆っているかのようだった。
「……すげぇな。まるで要塞だ」
ヒロトが呆れた声を漏らす。
「昔は違ったんじゃけどな」
リュシアの声には、どこか懐かしさが混じっていた。
「カラドリアは、妾が魔王の座にいた頃……人間との交易もあってな。音楽や芸術の盛んな都市だったのじゃ。子どもも、異種族も、誰もが笑っておった」
「今は……まるで軍事国家ですね」
ミレリアが呟く。
「現四大魔皇族、《統制の覇眼》ゼルドランの治世になってからじゃな。すべてが変わった。力こそ正義、異質は排除、弱者は役立たず。今のあの街は……正直、妾は見てられん」
「四大魔皇族?」
「あぁ、魔界は魔都を中心に四つの街が東西南北で別れておる。その街を管理、統制している魔王直属の配下のことじゃ。先のヴァリエラもそのひとりじゃな」
「なるほど。あんなやつがあと三人も……」
そんな言葉を交わしていると、遠くの壁で何かが動いた。
魔導ドローンがこちらを捉えたのだ。
「まずい、発見された! 一度、雲の上まで高度を上げる!アグニレイド頼むぞ」
アグニレイドが旋回し、雲間へと逃げ込む。ドローンの視線が外れるのを確認してから、リュシアが低く呟いた。
「正面からは厳しそうじゃな……じゃが、ひとつ当てがある」
「当て?」
ヒロトが聞き返す。
「あの街には、今も妾の古き知己が残っておるはずじゃ。名は《烈陽の剣帝》グラディウス。元四大魔皇族の一人でな、信頼できる男じゃ」
リュシアの口調が、僅かに硬くなる。
「……妾が王を退いたあと、奴は自ら支配者の座を降りて、市民の保護と治安の維持に徹するようになった。表向きはゼルドランの命に従っているが、本心では反対しておるはずじゃ」
「じゃあ、そいつに会いに行くんだな」
「うむ。街に潜入し、グラディウスを見つける。そして、門への通行方法を聞き出す。奴が協力してくれれば――」
「人間界に帰るチャンスが、見えるってことか」
ヒロトが拳を握る。
「よし、決まりだな!城塞都市カラドリアに潜入してみた!スタートだ」
《コメント:タイトルダサすぎて草/他人任せすぎ/異世界にもドローンあるのか…人間界の街に比べて魔界は発展してるな》
ミレリアが吹き出した。
「ふふ……行くぞ、お主ら。妾の記憶にある道が、まだ残っておれば良いが……」
こうして、ヒロトたちは竜を雲間に潜ませながら、カラドリアの外周へと降り立った。
かつて芸術と自由の象徴だったこの都市が、今は監視と圧政の象徴となっている。
――だが、その中にもまだ、かすかな希望の灯火は残っているはずだ。
そしてそれは、次なる戦いの始まりでもあった。
――次回、『城塞都市カラドリア・潜入編』
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