第21話「魔皇族ヴァリエラ戦・前半」
ノクシエル西部、上位魔族専用区画――。
漆黒の門が軋む音とともに開かれ、ヒロトとリュシアが足を踏み入れる。そこは、まるで舞台劇のセットのように作り込まれた異様な空間だった。
赤絨毯が敷かれた大広間。左右には観客席のような段差。天井には魔法陣が浮かび、演出用の幻灯がきらびやかな光を放っている。
「……これが、居城?」
「違う。これは“見世物小屋”じゃ。人を見世物にするための舞台……忌まわしき娯楽空間じゃな」
リュシアの目が険しく細められる。
突如、天井の魔法陣が光り、空間中央に映像が浮かび上がった。そこには、薄布のドレスを着せられ、拘束椅子に座るミレリアの姿があった。
『さあ皆さま、お楽しみの時間でございます――
美しきエルフの娘、ミレリアの“最期の夜”をどうぞご堪能くださいませ』
機械的なアナウンスとともに、幻想の歓声が響き渡る。ヒロトの拳が震えた。
「ふざけやがって……!」
その瞬間、彼の視界に赤くアラートが走る。
《登録者数:27740人》
《急上昇トレンド入り》
《スキル発動:エンターテイナー》
「俺は、人の不幸を外から笑ってる奴が一番嫌いなんだよ!!」
剣を抜き、怒号と共に飛び出すヒロト。観客席に潜んでいた魔族兵たちが次々と飛び出してくるが、ヒロトは強化状態で次々撃破していく。
リュシアも魔術で援護し、ヒロトの進路を守る。
「ヒロトよ、先に行け! ここは妾が塞ぐ!」
「リュシア!でも…」
「大丈夫じゃ。こんな奴ら何人いようが妾は負けぬわ」
「すまん、任せた!」
――そして、赤い緞帳をくぐった先。
そこには、玉座のような椅子に腰かけ、扇子を持って微笑む女がいた。
漆黒のドレスに身を包んだ絶世の美女――魔皇族ヴァリエラ。
「待っていたわ。大人気配信者様♪」
「なっ……!なんでお前がそれを」
「ヒ・ミ・ツよ♪」
ヒロトの目が鋭くなる。
「ふざけるなっ!」
ヒロトは叫び、ヴァリエラに斬りかかる。だが――
「おっと!怖い怖い!いきなり本気出して切り掛かってくるなんて、紳士としてどうなのかしら」
「うるせぇ!おまえがミレリアにしたこと…ぜってぇ許せねぇ!」
「あら、そう…でも…前しか見てないと危ないわよ?」
「なっ…!」
足元から氷柱が噴き上がり、ヒロトを吹き飛ばす。
「ね?言ったでしょ?」
「くそっ!!まだまだ…!」
ヒロトがもう一度突進しようとした時、背後から静止の声。
「待つのじゃ!」
「リュシア!?」
「怒りに任せて突っ込むな。直線的な行動はやつの思う壺じゃぞ」
その名に反応したのはヒロトだけではなかった。
「あらあらあら、ごきげんよう。……魔王陛下様♪」
「リュシアが……魔王!?」
「失礼、元魔王陛下でしたね♪新しい魔王様に負けて姿を消したと聞いていましたが、まさか人間に従っているなんて……」
「ふんっ…!ワシらはそのような関係ではないわ!媚びて支えておるのは、お主の方じゃろうが」
「……今の私は、力を手に入れた。あなたより遥かに強い力をね!」
ヴァリエラが怒涛の氷魔法を放ち、リュシアが炎の魔術で応戦する。かなりのハイレベルな応戦にヒロトは入り込めない
「強くなったというたか?見下していたものに媚びて得た力がこの程度か?」
「とことん、腹の立つ女ね…いいわ…!」
その言葉にヴァリエラが怒り、渾身の魔術を発動。頭上に氷の魔法陣を展開する。
「リューーーシアッ!!消え去りなさいッ!!」
「うぉぉおおおおお!」
「貴様ッ!いつの間に!!」
その刹那――隙を見逃さなかったヒロトの渾身の一撃が決まり、ヴァリエラは吹き飛ばされ壁に激突。
「……言ったじゃろ?怒りで自分を見失うなと」
ヒロトは、剣を構えながらにらみつける。
「さあ……ミレリアを返してもらおうか」
「それはできないわ。この子は今や、この館の一番の花。……そうよね、豚エルフちゃん?」
その言葉と共に、霧のような魔法が放たれ拘束されたミレリアが現れた。
目と口を塞がれ、椅子に縛り付けられた彼女の指先が震えている。
「ミレリア……!」
ヒロトは叫び、斬りかかる。だが――
「おっと♡」
結界が展開され、一撃を弾かれた。ミレリアの首元に幻影の刃が浮かぶ。
「……下手に動けば、彼女の喉を裂くわよ」
「下衆め……!」
「さあ武器を捨てなさい。人間は殺して、リュシア、あなたは飼ってあげるわ」
「クソ……!」
リュシアとヒロトが足を止めた、その時だった。
――カチッ。
魔術の拘束具が外れる音がした。
《共同配信者設定:復帰確認》
《ミレリアとのリンクが再接続されました》
「そうか……!近くに来たから、リンクが戻ったんだ」
「ミレリア!今だ!」
ミレリアが魔力を解放、周囲に衝撃が走る。
「チッ……!!」
ヴァリエラの顔に、初めて動揺が走る。
ミレリアが立ち上がり、瞳に光が戻る。
「ヒロトさん……」
「ミレリア!!大丈夫か?!」
二人の視線が交錯する。リュシアが駆け寄り、魔力が三者に集中していく。
「なるほど……ようやく“面白く”なってきたわね」
――次回、魔皇族ヴァリエラとの本戦、開始。
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