第20話「ミレリア奪還作戦開始」
ノクシエルの薄明の下、リュシアとヒロトは重い沈黙の中、石畳を進んでいた。街の騒がしさが嘘のように静まり返るこの区画――そこに、ミレリアが囚われているというヴァリエラの居城があった。
「なぁ、リュシア……あの時、どうして俺を止めた?」
ヒロトの問いに、リュシアはふっとため息をつく。
「お主はまだ若い。無茶もする。……だが、なにより、今のままでは勝てぬ相手かもしれんと思ったのじゃ」
彼女の声には、揺るがぬ冷静さと、どこか優しさが混ざっていた。
「それでも俺は行くよ」
「なぜそこまでこだわるのじゃ。あの娘のために命を賭けるほどに……」
ヒロトは静かに前を向いた。迷いのない目だった。
「ミレリアは、この世界で初めて……俺を“認めてくれた”人だから」
そして続けて、笑って言う。
「それに、女の子を助けるのに理由なんていらないだろ」
その一言に、リュシアは目を丸くしたあと、くすりと笑う。
「まったく……お主というやつは、どこまでも真っ直ぐじゃのう。仕方あるまい」
そう言って、リュシアは自らの背から一本の黒い鞘に収まった剣を取り出した。
「家出のときに、使えそうな物を持ち出してきたのじゃ。これはそのひとつ――妾が昔使っておった剣、“ヴァルブレイズ”じゃ。今は眠っておるが……力は本物じゃぞ」
「えっ……これ、こんな凄そうなもの俺に!?」
「そうじゃ。今は黙って使っておけ。あの娘を助けたいのじゃろ?」
ヒロトは剣を両手で受け取り、深く頷いた。
◇ ◇ ◇
ノクシエルの最奥――上位魔族専用区画。そこは街の中心から完全に隔絶された、選ばれし者だけの領域だった。
門前には、魔力で強化された魔族兵たちがずらりと並び、ただならぬ雰囲気を放っている。
(ここを超えなきゃ、ミレリアには辿り着けない)
ヒロトは深く息を吐き、脳内にウィンドウを呼び出す。
《スキル発動:コメントフロー》
「誰か、力を貸してくれ…!武術や剣術に心得のある人…。誰か…頼む」
ヒロトがそう言葉にするとコメントフローに反応があった。
《コメント:KENZOUと申します。今は剣道の師範代をしております。過去に全国大会優勝した事もあるのですがお役に立ちますか?》
「マジか!最高かよ」
《スキル発動:ライブリンク》
《ランダム視聴者との一時リンクに成功》
《対象視聴者:剣道全国大会優勝者「KENZOU」》
《リンク効果:剣術レベルが飛躍的に上昇》
「……ありがとう、KENZOU」
同時に、《コメントフロー》が起動する。
《コメント:お役に立てて光栄です。異世界で役立つかわかりませんが悪いやつぶっ飛ばしてミレリアちゃん救ってください。》
「あぁ。まかせろ!」
脳裏に鮮やかに刻まれていく感覚と知識。まるで長年修練を積んできた剣士のように、ヒロトの体が自然に動く。
剣を抜き、構える。
そして――
「邪魔だ、どけ!!」
その一閃は、雷のように門番たちを薙ぎ払い、そこには劫火が広がる。想像を遥かに超える速度と威力。リュシアのくれた魔剣と“ライブリンク”の融合が、ヒロトにかつてない力を与えていた。
(ヒロトのやつあんなに剣を使いこなせたのか、それにヴァルブレイズも目覚めておる。やはり…なかなか見所があるの)
リュシアが関心をしていると、奥から続々と敵が出てくる。
「な、何者だ貴様ァ!?」
「配信者だ」
ヒロトは静かにそう答え、さらに敵陣を切り裂いて進む。
明らかに強そうな歴戦の魔族たちは次々と倒され、ついにその先――ヴァリエラの居城が姿を現す。
闇に包まれた漆黒の門。その前で、リュシアが口を開く。
「この先におるぞ……ヴァリエラが。そして、ミレリアも……」
ヒロトは剣を握りしめ、頷く。
「……いくぞ、リュシア」
「うむ。今度こそ、思い切り暴れて良いぞ」
再び、配信のコメントが盛り上がる。
《コメント:KENZOUさん凄すぎて草/このまま突入だ!/ヒロト、マジでかっこいい!/ミレリアちゃん待ってて!》
《登録者:22305人》
闇に挑む光が、今――扉を叩く。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
ここで裏設定の共有です。
今回ヒロトとリュシアが薙ぎ払っているモブの戦闘力は登録者換算でいくと2000人前後です。
理由は後程書きますが猛者の集まりをこうも簡単に…
KENZOUさん恐るべし…
ついに次回、ボス編!
お楽しみに