第17話「異世界配信者と真紅の魔女」
瓦礫の中から子どもたちを救い出したヒロトは、ルズの案内で彼らの村――より正確には、もはや。村だった場所と呼ぶべき荒れた集落へと向かっていた。
大地の亀裂にある谷の奥にひっそりと広がるその場所には、子どもや老人の姿がちらほら見える。しかし誰もが痩せ細り、目には警戒と恐怖が色濃く宿っていた。
「……えぐいな。ここで一体何があったんだ……」
呟いた瞬間、空気を裂くような声が響いた。
「そこまでじゃ、人間!」
鋭くも威厳に満ちたその声と共に、空から赤いドレスをまとった女性が降り立つ。燃えるような長髪と艶やかな姿。だが、その眼光は鋭く、怒りをたたえていた。
「えっ、誰――」
「おい、逃げろ!リュシアだ!」
村人たちは一斉に身を隠す。目の前の女性がただ者でないことを、誰もが知っている。
「その子ども……村が襲われていると聞いて駆けつけてみれば、貴様の仕業か。下衆が!」
「は? ちょっと待てって!話を――」
「問答無用!!」
掌から放たれた黒炎が、ヒロトを襲う!
「うおっ……!!」
ギリギリでかわすも、さらに次々と襲いかかる魔法の連撃に、ヒロトは完全に防戦一方。
(くそっ……こいつ、やばい!確実にバルゼノ以上……!)
「ちょこまかと……これでもくらえ!」
「ヤバッ!これ死ぬ…」
巨大な炎の球が迫る。その瞬間――
「待って!!」
ヒロトの前にルズが飛び出した。
「やめて!この人は、僕たちを助けてくれたんだ!!」
その叫びに、リュシアの魔力が一瞬揺らぎ、黒炎は空へと霧散する。
「……なに?」
「ほんとだよ!お兄ちゃんは僕たちを助けてくれたの!」
怯えながらも必死に訴える子どもたちの声に、リュシアの眉がわずかに動いた。
沈黙ののち、リュシアはゆっくりと魔力を収める。
「……誤解だった、というわけか。ならばすまなかったな、人間。だが、魔界に人間が現れるなど前代未聞。疑うのも当然じゃろう」
「まぁ、そりゃそうだよな……。分かってもらえてよかった」
「して、おぬし、何故こんな所に?」
「実は……転移魔法の暴走に巻き込まれて、気づいたらここにいたんだ。正直、状況もよく分かってない。ただ、仲間のエルフの女の子を探してて……その途中で、この子たちを助けたってわけさ」
(魔族の事はよくわからない。バルゼノのことは……今は伏せとこう)
「……ふむ、転移魔法か。ならば納得もいく。……ん? エルフの娘と言ったか?」
「そうだ。名前はミレリア。どこかで見なかったか?」
「……そういえば。西の要塞都市で、エルフの娘が捕まったという噂を聞いたぞ」
「本当か!? ……それ、きっとミレリアだ!」
ヒロトが焦りすぐに駆け出そうするとリュシアは制止する。
「おいおい、焦るでない。魔界においてエルフは貴重な存在。奴隷にされるか、喰われるか……いずれにせよ高値で取引される。そう簡単に殺されはせんじゃろ。それに……西への道も知らぬくせに、どうやって行くつもりじゃ?」
「う……たしかに」
「ならば妾が連れて行ってやろう。この子どもたちも、どうせ都市に保護せねばならん。まとめて運ぶ方が効率が良い」
「……えっ? 本当に?」
「ああ。さっきの無礼への詫びも兼ねてな」
「……助かるよ。ありがとう」
リュシアが連れてきたのは、地龍に引かせた魔界式の馬車――《龍車》だった。ヒロトとルズたちはその中に乗り込みの要塞都市へと向かう。
道中、ゆったりと揺れる車内。リュシアが口を開く。
「そういえば、名はなんという?」
「俺はヒロト。確か、君は……リュシアって呼ばれてたよな?」
「うむ。その通りじゃ。さっきはすまんかったの」
「もういいよ。それより、あの村に来た理由って……?」
「実は、あの村も少し前までは穏やかな場所だった。だが、新しい魔王が実力絶対主義を掲げたことで、一部の魔族どもが認知を得ようと暴走を始めたのじゃ。人を恐怖させ、自分の力を上げるためにな」
「……自分のために、他人を傷つけるなんて……許せねぇな」
「まったくじゃ。妾は各地を回って、少しでも被害を抑えようとしておる」
しばし沈黙。
やがてリュシアが小さく笑みを浮かべ、続けた。
「ま、人間のおぬしに話しても仕方のないことかもしれんがな。気にするでない。街まではまだ一日かかる。今は少し、身体を休めるがよい」
「あぁ…。すまない…少しだけ言葉に甘えるよ」
ヒロトは頷き、目を閉じる。何故か本能的にこの人は信頼できると感じた。それに今の俺より強いのに寝込みを襲う必要もないだろう。何より戦闘続きでとっくに身体は限界だった。休もう。
ミレリアを救うための旅は、まだ始まったばかりだ。
ここまでお読み頂きありがとうございました!
謎の女性リュシア…登録者5000人近いヒロトを圧倒する彼女の正体は何者なのか。
ここで少し取得スキルのおさらいです。
ヒロトのスキル一覧
1.《バズチャージ》
・効果:視聴者数の急増やSNSでの話題性により、一定量のエネルギーがチャージされ、スキル発動の起点やステータスの一時的なブーストになる
2.《観察者の眼》
・効果:一度だけ対象の情報を詳細に観察できる
・使用履歴:ミレリアに使用済み
・制限:同一対象には一度しか使えない
・登録者1000人突破時に解放
3.《共鳴バースト》
・登録者2000人到達時に獲得
・効果:共同配信者と連携時、攻撃力が上昇
4.《エンターテイナー》
・登録者4000人突破時に解放
・効果:視聴者が極限に集中した時、すべての能力が飛躍的に向上
実は3000人突破スキルも取得しており、次回登場予定!
お楽しみに!
ブックマーク、高評価何卒宜しくお願いします。