第16話【異世界配信者、魔界でも無双します】
――真っ暗だった。
全身を包み込むような、冷たくて重い闇。その中を、どこまでも落ちていくような感覚があった。
「……ミレリア……!ミレリア……ッ!!」
叫びが虚空に吸い込まれていく。応答はない。
次の瞬間、重力が反転するような衝撃とともに、ヒロトの身体は石のように大地に叩きつけられた。
「う……ぐぅ……どこだ、ここ……」
目を開けると、そこには異様な世界が広がっていた。
赤黒く染まった空。荒れ果てた大地。木々は枯れ、岩は浮き、空には裂け目のような紫の光が走っている。
《現在地:詳細不明…取得中》
《転移先:魔界大陸エリア・北東部“アングラ盆地”》
《共同配信者”ミレリア”がスキル効果範囲にいない為、個人モードに切り替えます》
「そうだ!ミレリア!!」
ヒロトは立ち上がると、まずミレリアの姿を探す。しかし、どこにもいない。
「くそっ……スキル対象外って事は今、ミレリアは元の状態。早く見つけねぇと……!」
《チャンネル登録者:4420人》
《コメント:どこやここ!?/ミレリアちゃん無事!?/異世界から異世界行ったやん……!/観察者の眼つかお!》
「……そうだ。その手があったか!!スキル発動!」
《エラー:観察者の眼は一対象につき一度しか使用できません》
「くそっ!!そうだった!……でも、焦るな…ミレリアは強い子だ。大丈夫。俺はまず、状況を整えて、彼女を探す!」
深呼吸し、ヒロトは目を閉じる。身体は満身創痍だったが、内から湧き上がる意志が、彼を支えていた。
――その時、遠くから助けを求めるか細い声が聞こえた。
「たす……けてぇー!」
ヒロトは即座に走り出す。
黒煙が立ち込める瓦礫の向こう。崩れた石造りの廃屋が見えてくる。
「うぅ……やめてよ……!」
「や、やめろよぉ……!」
中では、異形の小さな魔族たち――幼い角や翼を持つ子どもたちが、数人の大人の魔族に囲まれていた。
「魔族が魔族の子供を襲ってるのか…?ったくなんなんだ。」
「ガキども、これが現実だ。ここは魔界、弱い者がどうなるか教えてやるよ」
その中のひとり、筋骨隆々の獣人型魔族が唸るように言い放った――その瞬間だった。
――ズドォンッ!!
壁が破壊され、埃とともにヒロトが突入する。
「おい、オッサン。子ども相手に何イキってんだ?」
「……なんだてめぇ。部外者が口を出すな!」
「そういうの見てると、黙ってられねぇ性分でな!」
ヒロトが笑みを浮かべて構えを取ると、空気が震える。
《登録者数:4460人》
《コメント:キターー!!/悪党退治や!!/いったれーーー》
「おい!みてみろよ!コイツ人間だ!しかももうボロボロだぜ?くっちまおうぜ!!」
獣人型の魔族が唸りながら、巨体を揺らして殴りかかる。
「遅ぇよ」
ヒロトは一歩も動かず、その拳を片手で受け止めた。
「な、なにっ!?」
「悪いけど今の俺は、手加減できねぇぜ!」
そのまま拳を押し返し、逆に男の腹へ拳を突き刺す。
――ズガァァンッ!!
獣人魔族が壁をぶち破って吹き飛ぶ。
残る魔族たちが一斉に武器を構えるが――
「全員でかかってこいよ」
「人間風情が粋がるなぁ!」
飛びかかってきた魔族たちを、ヒロトは躊躇なく迎え撃つ。
一撃、また一撃。その全てが的確に急所を捉え、圧倒的な速さと力で敵を薙ぎ払っていく。
《コメント:ヒロト無双タイム/BGM変われ!/映画かよこれ!》
「ヒ、ヒィ……お前……人間のくせに、ま、まさか勇者か……?」
「うるせぇ。さっさと消えろ!二度と子供に手ぇ出すんじゃね!」
《コメント:惚れる/名言きた!/スカッとジャパン案件!/ヒロト勇者説浮上》
ヒロトが振り返ると、子どもたちは怯えながらも、目を輝かせて彼を見ていた。
「お兄ちゃん……助けてくれて、ありがとう……!」
「困ってる奴を放っておけないんだよ。……名前、教えてくれ」
「ぼ、僕はルズ!この子たちは、同じ村の子たち……村が襲われて逃げてきたんだよ……新しい魔王様になってから、大人達がおかしくなっちゃって」
「そっか……大変だったな。でも、もう大丈夫だ。ここからは、俺がなんとかするから」
ヒロトは小さく笑い、空を見上げる。
(ミレリア……待っててくれ。俺、今度こそもっと強くなる)
魔界の空は不穏に揺れていた――だが、彼の目は前を、まっすぐに見据えていた。
最後まで読んでくださってありがとうございました!
今回は久々に、ヒロトの爽快な無双シーンをお届けしましたが、いかがでしたか?
今回の裏設定としては
魔族モブあらくれたちの戦闘力は登録者換算すると
300人程です。
手加減できないといいつつヒロトはかなり手加減してたんですね。
次回は新たな仲間や敵も登場し、物語はさらに加速していきます!
ヒロトの「魔界編」、ここからが本番です。
ぜひ、次回もお楽しみに!