第15話「バル=ゼノ討伐戦・後編」
――ドォン!!
バル=ゼノの巨大な腕が振り下ろされる。
ヒロトは木剣を構えて受け止めるが、その一撃はあまりに重い。
「ぐっ……うおおおッ!!」
地面に足がめり込み、足元の岩盤が砕ける。追撃の尻尾がヒロトの身体を弾き飛ばし、彼は崖の壁面に叩きつけられた。
「ガハッ……くっそ……」
「ヒロトさんっ!!」
ミレリアの悲鳴が響く。しかしバル=ゼノは止まらない。
「ハァーハッハァ!人間風情が!さっきまでの威勢はどこに消えたあああ!」
ヒロトが再び立ち上がり、木剣を構える。
「うおおおおッ!」
――バギィン!!
「なっ…!」
だが剣撃は弾かれた。と同時に木刀が折れ、そのまま身体は宙に投げ出される。黒く変質したバル=ゼノの肉体には、かすり傷一つすらつかない。
「なにかしたつもりか?」
次の瞬間、ヒロトは宙で足を掴まれ、巨体によって何度も地面に叩きつけられた。
《チャンネル登録者:2987→2962人(離脱)》
《コメント:もう観てらんない……/ヒロト死ぬって!/え?これマジのやつ?!》
ミレリアが詠唱を始める。
「光よ、我が声に応え――」
「邪魔だあああ!!」
バル=ゼノはヒロトを投げ飛ばしミレリア目掛けて魔弾を放つ。放った魔弾がミレリアを襲う。光の矢は未完成のまま霧散し、彼女は吹き飛ばされ壁に衝突する。
「ミレリアァァ!!」
身動きの取れないミレリアにバルゼノは更に魔弾で追撃する
「お前のせいだッ!全部お前のせいだあああああ!!」
なおも止まないバル=ゼノの怒りの連撃。
ヒロトは血を吐きながら、残りの力で自分の身体をミレリアの前に盾として投げ出す。
「ヒロ…トさん…。ダメ…死んじゃう…。」
「ミレ…リ…ア…ぐっ……お前は…逃げろ…」
(…ダメだ…。カッコつけたけどだんだん痛みも感じ無くなってきた…)
「ヒロトさん…誰か…お願い…ヒロトさんを助けて…」
――その時だった。
《#ヒロトを助けて がトレンド1位に浮上しました》
《コメント:みんな拡散だ!!拡散!!/イケメンすぎ登録した!/ヒロトお前しかいないんだ!/根性みせろぉぉ!/私のチャンネルでも宣伝してきた/よっしゃ!俺もしてくる!》
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《現在登録者数:4379人》
ふっと、風が変わる。
誰かの“祈り”が、背を押すように届く。
――温かい。画面の向こうから、みんなが“応援してくれてる”。
《登録者4000人突破 スキル解放:“エンターテイナー”》
《効果:視聴者が極限に集中した時、すべての能力が飛躍的に向上》
「力が……身体が、軽い……!」
ヒロトは腕を前に交差させて、相手の魔法を弾きながら一直線に突撃する
「最後の悪あがきか??しねぇぇ!」
バル=ゼノの拳を、ヒロトは右に避け、次の瞬間にバルゼノの腕を握る。
「な、なにっ!?」
「……みんな、ありがとう。何度もゴメン…。」
ヒロトの声が静かに響く。
「俺に何してもいい。でもミレリアに……“仲間”に手を出したお前だけは、絶対に許さねぇ!!」
バル=ゼノの腕を掴んだまま、その顔面に――
――ズガアアアァァァン!!
渾身の一撃を叩き込む。
「ぐあああああ!!」
「配信者、ナメんなよ……!」
そして第二撃、第三撃。
怒涛の連打が、ついにバル=ゼノの膝をつかせた。
「まさか……聖草の力を得た俺が……! この俺が……!」
「俺だって力を求める気持ちはわかる。強くなりてぇよな。認められてぇよな。けどなお前の力は人を不幸にする…。ここで見逃したらもっともっと多くの人が泣く事になる。だから…」
ヒロトは渾身の力を拳に込めて振りかぶる
「や、やめろやめろ!やめろおおおおおお!!」
次の瞬間、ヒロトの怒りの拳がバル=ゼノの腹に直撃し――衝撃が、魔族の身体をふっとばす。
バル=ゼノは血を吐き、悶絶していた。その顔には、怒りと絶望、そして――悔しさが滲んでいた。
「何故だぁぁぁ!!!この俺が人間如きに!!」
「もう終わりだ」
ヒロトは止めを刺そうと拳を握る。
「ハァハァ…まだだ…まだ、終わってたまるかぁ!」
魔族は、懐から“転移陣の札”を取り出し、地面に叩きつける。
「覚えてろ…人間…必ずお前の大事なものを全て壊してやる!」
「させるかあああああああッ!!!」
ヒロトの最後の一撃が、バル=ゼノに炸裂する。手応えはあった!
だがその瞬間――
《転移陣:発動不完全》
《魔力暴走発生》
「ヒロトさん、離れて!!」
「ミレリア!!」
――そして、視界が白に染まった。
暴走した転移陣が暴風のような魔力を吹き荒らし、ヒロトとミレリアを呑み込んでいく。
《強制転移開始:地点不明/時空軸変動中》
「ミレリアァァァァアア!!!」
「ヒロトさん、手を……離さないで……!!」
しかし、指先が触れ合った瞬間――
――バシュッ!!
彼らの姿は、空間の歪みに吸い込まれた。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!
この第15話をもって、物語は第一章「始めての異世界配信編」に区切りをつけ、次回からは新たな展開――第二章「魔界配信編」がスタートします。
次回からは魔界を舞台に、さらなる強敵、新魔王との対決へ向けて、物語が大きく動き出します。
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それでは、第二章でまたお会いしましょう!