第12話「異世界配信者、ギルド生配信」
「これを持っていってくれ。……我が里で仕立てた服と木刀、旅の資金だ」
――数日前、エルフの里を旅立つ直前。
族長・ライネルはそう言って、白銀の刺繍が入った軽装の上着と、小袋に入った金貨、そして一本の木刀を俺に手渡してくれた。
「お世話になった上にこんな……」
「それでも足りないくらいだ。そして、これは“信頼”の証でもある。君に託す」
「でも、お父様、何故木刀なの?」
「今の彼は、力のコントロールができていない。そんな状態でエルフの武器など渡したら村ごと吹き飛ばしかねん。それにその木刀は、我々の魔法で強化されたものだ。見た目に反して、そんじょそこらの剣には負けんさ」
「なるほど……本当にありがとうございます」
あの時のミレリアの顔は、少しだけ誇らしげだった気がする。
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――そして今。
「うおっ……すげぇ。人、めっちゃいる!」
俺たちがやってきたのは、“リゼルの街”。石畳の大通りに、冒険者、商人、獣人、ドワーフ……異種族が行き交う異世界感満載の都市だった。
《コメント:まさに異世界感!/背景がガチ/ヒロトの服、映えてる!》
「ここがリゼルの街です。冒険者の町でギルドもありますよ。……って言っても私も来るのは年に一度あるかないかなんですけど」
「マジ!?ほんとにそういうのあるのか!ワクワクするな!行こ行こ!この前の件で登録者もめちゃくちゃ増えたから少し腕試ししたいんだ!」
「もう……ヒロトさんったら、子供みたい。でもお父様にも言われましたが目立ちすぎはだめですよ!」
「はーーい。さて、人類初、異世界ギルド生配信といきますか!」
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そして向かったギルドは、屈強な冒険者たちであふれていた。まさに想像していた“異世界”そのもの。
「やぁ、君たち。新規登録希望者かな?」
受付にいたのは、落ち着いた雰囲気の女性。なんかやたらと視線を感じる。
「はい。ヒロトさんは旅の途中で、力試しも兼ねて……」
「あ、えっと、まあ……そんな感じです」
「では簡単な模擬戦をしていただきます。こちらの訓練場へどうぞ」
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通された先には、大柄でスキンヘッドの男――どう見ても歴戦の戦士が腕を組んで立っていた。
「新入りか? ひとまず“ギルドマスター”の私と手合わせしてもらう」
「ギルドマスター!? え、でっか!」
《コメント:戦闘シーン来た!/ギルマスゴリラすぎw/死亡フラグ建設中》
「ガッハハハ、安心しろ。本気は出さん。あくまで実力を見るだけだ」
「みんなー、俺が無事生きてたら登録よろしくな〜」
《バズ・チャージ発動中》
《チャンネル登録者:現在1659人 → 瞬間強化適用中》
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「何をぶつぶつ言ってる!来い、坊主!」
「ヒロトさんっ、がんばって!」
不安そうなミレリアを見て、受付嬢が声をかける。
「大丈夫ですよ。ああ見えてもギルマスは加減できる男ですし……見たところ素人さんのようですし、そこまで乱暴なことにはならないと思いますよ」
「いや、その……ギルマスさんの方が心配なんですよね……」
「え? まさか彼がギルマスに勝つと? この街のギルマスは相当な実力者で、過去にはSランクも視野に入っていたほどなんですよ?」
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「そりゃあああああ!!」
ヒロトは木刀――いや、魔法強化された木剣を一閃!
ドゴオオオッ!!!
ギルドマスターが吹き飛ばされ、後ろの壁にめり込む。
「……え?」
「な、なんだ今の……?」
「まさか木剣一本で、ギルドマスターを一撃……!?」
《コメント:やばwww/ヒロトつえぇえ!/登録しててよかった!》
「……あ、あの……これって……?」
受付嬢はぽかんと口を開けたまま、ミレリアが横で深いため息をつく…。
「もぅヒロトさん…目立ったらダメですって…」
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こうして、俺は"新人冒険者”として、異世界の表舞台に立った――。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
今回は、ヒロトとミレリアが初めて“人の街”に足を踏み入れ、冒険者としての第一歩を踏み出す回となりました。
次回からはいよいよ、旅の目的地である“ノコギリ山”編に突入!
逃げた魔族の行方を追い、よりスケールの大きな戦いへ――!
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次回もどうぞよろしくお願いします!