第11話「旅立ちと“力の正体”」
戦いを終え、村に戻った俺とミレリアは、エルフ族長・ライネルの家に招かれていた。
「……今回の件、本当に感謝している。ヒロト君、君のおかげで、村も娘も無事だった」
「いや、俺は……無我夢中で…」
ライネルはうなずくと、少し険しい表情になった。
「謙遜しなくてもいい。だが――逃げた男について、話しておかねばならない。あれは“バル=ゼノ”。魔界大陸でも名の知られた高位魔族だ」
「は? そんなヤバい奴だったのか……俺、棒で殴ってたぞ」
「そこなんだ!だからこそ聞きたい。君はいったい、何者なのだ?」
ここで誤魔化すのは違う。それにこの人は信じていい人だ。俺は意を決して告げた。
「……実は、俺はこの世界の人間ではないんです。前の世界ではバイトしながら“配信者”ってことしてて……いや、配信者っていっても底辺なんですけど、あー……そうじゃなくて、とにかく“自分を見てもらう”ことで力を得る、そんな仕事というか……趣味というか……」
ライネルは少し困惑しながらも、静かに頷いた。
「成程。その“配信者”という概念は理解しがたいが……異界の理、というのなら腑に落ちる。だが、この力の仕組みは、あまり人前で明かさぬ方がよい」
「はい。でも、どうして隠す必要が?」
「ヒロト君。この世界では、力は――“人気”で定まる。憧れ、執着、嫉妬、恋心……様々な感情が、力へと変換される」
(なるほど……だから登録者が増えると強くなるのか)
「だがそれは、“個人の人気”だけではない。“種族のイメージ”や“立場”の補正もかかる。例えば、君から見たエルフは?」
「え? えっと……美しくて神秘的な種族……とか?」
「その通り。我らエルフは、そのイメージによって産まれ持って力が人間より遥かに高い。これを“種族値”と呼ぶ」
「へぇ……じゃあ魔族は“恐怖”のイメージで強くなってるっとこですか?」
「正解だ。そしてさらに、“立場や称号”が人気に上乗せされる。例えば――」
「族長であり、イケメンなライネル様ってわけですね」
「ゴホン…。まぁそういうことだ。逆に、“人間”は種族値が低く、特別な肩書きもなければ力が弱いとされている。だからこそ、君は異例なんだ。そして、名もなき人間が突出した力を見せれば、恐怖されるか、利用されるか……」
「……なるほど。俺の正体がバレれば、面倒なことになるってわけだ」
「そういうことだ。君はその力でどう生きる?」
少しの沈黙のあと、俺は口を開いた。
「そっか、俺……本当に強くなったんだな。…それなら俺、困ってる人を助けたい。そもそも借り物の力だし、それに元の世界でも、配信は誰かの気持ちを軽くできたらって気持ちでやってたし」
ライネルが、ふっと笑った。
「安心したよ。君なら大丈夫……気をつけて行きなさい」
すると、横にいたミレリアが一歩前に出た。
「でしたら、私もご一緒させてください!」
「え?」
「先程の力の話は、物などでも例外ではないのです。聖草は、それ自体が伝説の存在。強大な力が備わっているのです。その一部が、魔族に渡ってしまった。……私の責任です。回収しなければ」
「でも、君のお父さんは――」
「行ってこい」
ライネルは娘に優しく頷いた。
「私が信じるべきは、娘の信念だ。……帰ってくるその日まで、信じて待とう。それに、ヒロト君と一緒なら大丈夫だろう」
「え?」
無言の圧と俺を放って話が進んでいくことに俺は戸惑ったが、まぁ美少女との旅なんて悪くない。
「……ありがとうございます! ヒロトさん! よろしくお願いします!」
「ま、まぁ……いいか。ミレリア、よろしくな」
「はいっ!」
「でも、魔族はどうやって探す?」
「それなら任せてくれ。《スキル:観察者の眼》!」
ヒロトの前にウィンドウが開き、魔族の痕跡を追い始める。
「なんだね、それは……?」
「触れたことのある相手の過去の動きを、映像で見返せるんですよ」
「へぇ! 便利な能力ですね!」
「そのスキルでミレリアの居場所も突き止めたってわけだな、改めてとんでもないな。」
俺は魔族の移動ルートを目で追い、位置を特定する。
「……ギザギザの山の方角……その麓の洞窟に入っていった」
「東の山脈…ノコギリ山か。あそこなら、人間の村も途中にある。少し寄っていくといい」
「よし、東だな!」
「行きましょう、ヒロトさん!」
こうして――“ふたり旅”が始まった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
今回は、ヒロイン救出編の決着後、ヒロトの「力の仕組み」やこの世界の“人気=力”という本質が明かされる回でした。
ちょっとコミカルに見えて、実はわりと重たい設定だったりします。
「種族イメージ+個人の人気」で力が決まるというルールは、今後のストーリーにも深く関わってくる要素です。
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それではまた、次回お会いしましょう!