第10話 「配信者と森の守護者」
「――煮えたぎる業火よ……我に仇なすものを焼き尽くしたまへ……ファイアボール!!」
敵の一人が詠唱を終えると、轟音とともに赤黒い炎の球体が飛来してくる。
「魔法か!? これはヤバイッ……!」
直撃するその瞬間、俺は腕を前に出して身構える――が、
ボフン!
鈍い破裂音とともに火球は弾け、煙だけが残った。
「あっつ……くない? ……ってか、全然効いてないんだけど?」
《ダメージ:ゼロ》
《スキル《信頼の加護》発動中:対炎属性耐性+80%》
《チャンネル登録者:1003》
《ボーナスステータス上昇:ザコ+16.7》
《コメント:ヒロトォォ!/効いてないww/これはチート/詠唱が厨二すぎw》
「なにこれ……今、俺めっちゃ強くね?」
体が軽く、敵の動きがスローに見える。
まるで世界の方が合わせてくれているような感覚だった。
「……これが登録者1000人の力……! みんな……ありがとう」
《コメント:いいってもんよ!ドヤッ/いけぇぇええ!》
ヒュッと地を蹴ると、一瞬で敵との距離がゼロになる。
手にした木の枝を――
「おまえら!しっかり見とけよ! 一人目ぇ!!」
――ズドンッ!
腹にめり込んだ棒の一撃で、敵は吹き飛び、地面を転がって気絶。
フードが脱げると、エルフではない。でも普通の人間でもない。どこか魔物のような…
「……なんなんだ、こいつら」
「くそっ、何をしている! 囲めッ!!」
残りの3人が一斉に襲いかかる。
「三人同時か……いいぜ! やってやろう!」
《スキル《バズ・チャージ》発動中》
《ステータス:爆増中》
《チャンネル登録者+31》
右の敵に接近、足を払って転ばせる。
左の敵には回り込んで背中に一撃。
「くぅーーーっ! 気持ちいい! これが大立ち回りってやつか!」
《コメント:今の回避かっこよすぎ!/某伝説の人斬りかとおもったw》
《コメント:登録しました!次の無双見たい!》
――残るは一人。
震える敵のリーダーが、ミレリアに手を伸ばす。
「来るなっ! こっちにはこの女が――」
「させるかよ」
跳躍し、地面を滑るように間合いを詰める。
《登録者数:1100人突破》
《スキル発動強化:+2.5》
「くらえ! 視聴者数1100人突破感謝斬ー!!」
渾身の棒が横一線に振り抜かれ――
――ドガアアァァァン!
土煙が立ち、敵が吹き飛ぶ。
森には静寂が戻っていた。
《敵勢力:全員戦闘不能》
《戦闘クエスト完了:ヒロイン救出成功》
《チャンネル登録者+72 → 合計1156人》
《新称号:エルフの森専属配信者 獲得》
「……終わった、か」
へたりこんだ俺に、ミレリアが駆け寄ってくる。
「ヒロトさん……!」
泥だらけのローブ。頬にかすり傷。
でもその目は、まっすぐに俺を見つめていた。
「ほんとうに……ありがとうございました。
私……何もできなくて、ただ怖くて……」
「そんなことない。君は、村を、お父さんを、みんなを守ったんだ。
……よく頑張ったね」
ミレリアをそっと胸元に抱き寄せて、頭を撫でる。
《コメント:ヒロト裏切ったな!/もう完全にカップルだろ/イケメソすぎ……》
《コメント:お前がNo.1だ!/童貞卒業編開幕!》
こいつらなぁ…。まぁでも本当に今回は感謝だ。そのとき、周囲がふわりと金色の光に包まれる。
「……この光、聖草? こんなにたくさん……?」
ミレリアが涙を拭きながら呟く。
「父から聞いた場所と違う……なぜ、ここに……?」
そこへ、村の方向から声が響く。
「ミレリアーーっ!!」
「お父様!? ダメです、安静にしてなきゃ!」
「なにを言う! 娘の危機に黙っていられるか!……むっ!? これは……聖草?」
「気づいたら、急に光りだして……」
「……いや、これは……。もしかすると、森が“選んだ”のかもしれんな」
「え?」
「私はずっと、聖草は“森の番人が探すもの”だと思っていた。
だが、真に森が認めた者のもとにこそ、聖草は姿を見せるのかもしれん……」
なるほど……よくわからないが
魔法のある世界だ。そんなこともあるのだろう。きっとミレリアの覚悟に森が応えたんだ。
「それより、村長! こいつら、どーします?」
倒れていた男たちを見て、ライネルが目を細めた。
「……やはり。魔族と結託していた裏切り者がいたか。
この者たちを捕えよ!!」
「……魔族?」
その疑問に、ミレリアが答える。
「魔族っていうのはね、人間やエルフとは違って、“魔界大陸”に住む魔神の加護を受けた種族のことなの」
「へぇ……って、待て。あれ……」
気づけば、倒したはずのリーダー格の姿がない。
辺りを見回すと――空を飛ぶ、コウモリのような羽の男がいた。
「ヒャッハーッ! まぬけ共め、これはもらってくぜ!!」
そう叫び、魔族のリーダーは空へと逃げていった。
「くそっ! 逃がすかよ!!」
俺が追おうとするのを、ライネルが制止する。
「待て、ヒロト君。幸い、ミレリアは無事だ。
聖草も手に入った。……今回は、これで十分だ」
拳を握りしめながらも、俺は頷いた。
(でも、絶対に逃がさねぇ。次は――俺が追う)
そして、俺の視界に新たな通知が浮かぶ。
《新クエスト:「闇を追え。魔族の足跡を辿りし者」》
《報酬:???》
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