表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/43

9話 掘削機を手に入れる方法









 その日から彼女らは、計画の準備に大忙しとなった。作戦任務もこなした上での準備は中々過酷な作業だったが、その先には彼女らの夢である「自由」が待っているとあって、どんなに辛くても彼女らは絶えられた。


 現在ボンゴ村は、人族軍の占領地となっている。その先のゴブリン占領地域にゴルドーの町はある。言わば最前線でもある。

 その状況だと、ゴルドーの町へ行く口実はいくらでもある。出撃命令さえあれば、ゴルドーの町へ立ち寄れる。

 それには作戦に必要なものを揃えなくてはいけない。

 その中でも調達に苦労しているものがあった。それは小型の掘削機だった。ポンパンが持って来た地図によると、どうしても壁に穴を開けなくてはいけない場所がある。下水道の中の壁だった。爆破も考えたのだが、それは音と衝撃が大きすぎて見つかる可能性が高い。

 掘削機ならば音を制御出来るし、マノンの土属性魔法との相性も良い。

 それが駄目となると、商業ギルドの建物の正面から侵入しなくてはいけなくなる。それはゴブリン軍と真正面から戦うことになる。

 それを避けるための掘削機だ。

 地下から商業ギルドの建物に侵入して、そのまま速やかにお宝を持ち去る作戦だった。極力戦闘は避けるつもりで考えていた。


 だが調達屋のアイナでさえ、小型の掘削機が手に入らないと言う。戦時中だから、そういった特殊機械は生産が止まっているからだろう。

 あらゆるツテを使って調べたところ、ある人物の名があがった。


 同じ懲罰大隊のバーバラ伍長だった。

 先日一緒に戦った第3突撃兵中隊、第2小隊の隊長である。

 バーバラ伍長は元建設大隊の小隊長だったことから、その名があがったのだ。建設部隊にいたなら、掘削機くらい何処で手に入るか知っているはずだと考えた。

 

 そこでマノンがアイナに聞く。


「ちょっと待ってもらえる。バーバラ伍長に頼んだとして、確実に怪しまれるでしょ。何に使うか聞かれたらどうやって誤魔化すつもりなの。それに何処にあるか分かっても、それを手に入れる方法が無いかもしれないのよ。何よりバーバラ伍長は信用出来るのかなのよね」


「う〜ん、そう言われると何も言い返せないんだけど、今のところそれしか入手方法が見つからないなんだよね〜」


 しばらく無言で考えるも、突然マノンが口を開く。


「仕方無いわね。バーバラ伍長に話を持って行ってみましょうか」


 そこからは早い。

 その日の内にバーバラに「内密の話がある」という伝言を送り、その日の夜に落ち合う約束までした。


 マノンは何とか任務を終えて、時間ギリギリに待ち合わせの森へと向かった。もちろんアイナとリナも一緒である。


 マノン達が到着すると、バーバラが一人で待っていた。

 

「こんな所に呼び出して内密の話とは何だ」


 ストレートに聞いてきた。

 そこでマノンも素直に答える。


「掘削機を都合つけて欲しい。装甲歩兵が使える程度の大きさのね」


「はあ? 何を言い出すかと思えば、掘削機だと。いったい何に使うつもりだよ」


「それは作戦で使う。ただ詳しくは言えない規則でね。金は払うつもりだから安心して欲しい」


 バーバラはいぶかし気にマノンやリナ、そしてアイナを見る。そこでアイナに視線を止めたまま言った。


「何か隠してやがるな」


 するとアイナが視線を泳がせながら答える。


「な、なんの事かな〜」


 リナが腰のホルスターにそっと手を持っていく。


 するとバーバラが声のトーンを少し下げて言った。


「やめときな、こっちの方が人数が多いよ」


 その言葉の途端、周囲の森の陰から人影が現れる。現れたのは4人で、汚れてはいるが全員軍服を着ている。恐らくバーバラ小隊の兵士だろう、突撃銃を構えている。


 アイナとリナも拳銃を抜いて構える。

 人数でも武器の威力でも負けているが、そんな事はお構い無しに、アイナとリナは凄い形相で威嚇する。

 

 そんな中でもマノンは特に慌てる様子も無く、軽く笑いながらつぶやいた。


「ふっ、抜け目無いみたいね」

 

 そしてバーバラ。


「まあ、喧嘩しに来た訳じゃないんだろ。正直に話せよ。こう見えても口は固い方だぞ。ほら、お前ら、もう銃は下ろして良いぞ」


 その言葉でバーバラの部下が銃を下ろすと、アイナとリナも銃を下ろした。


 そしてバーバラは再び話を切り出す。


「私が元々建設部隊からこっちへ来たってのは知ってる様だな。まあそれで掘削機の話を持って来たんだろうけどな。話の流れから推測するとだよ、軍の作戦じゃないんだろ。懲罰部隊の作戦で掘削機なんか使うはずがないからな。それくらいは建設部隊にいた私なら分かるんだよ。だからさあ、話しちゃえよ、な?」

 

 バーバラが悪そうな笑みを浮かべた。

 それにマノンが、やれやれと言った感じで答える。


「バーバラ伍長、あなたの言う通りで、掘削機は私達個人の作戦で使う。ただしこの先を聞いたなら同罪で後戻りは出来ないけど、覚悟は出来ているの?」


「ああ、はなっからそのつもりだよ。なあ、皆もそうだろ」


 するとバーバラの部下達も「覚悟は出来てるよ」とか、「問題ないね」とか言い出した。


 そして「この話は絶対に他に漏らさない事」と釘を刺した後、マノンは作戦のあらましを説明した。


 ・

 ・

 ・


 説明が終わるとバーバラがつぶやく。


「面白そうじゃないか。そういうのを待ってたんだよ。それでその取引用の金貨って幾らになるんだい」

 

「取引用金貨は普通の金貨10枚分で、全部で220枚って言ってたから、経費を差っ引いて……そうね一人頭の取り分を金貨に換算すると、270枚ってところね。ただし経費は暫定だからまだ掛かるかもしれないわよ」


「ひとり当たり金貨270枚、金額にすると270万コロネだぞっ、そいつはすげ〜!」


「でも失敗したら銃殺よ、それは忘れないでね」


「分かってるって。でもさ、あんたらそんな大金を得てよお、ここにいたらそれこそ宝の持ち腐れだろ。どうするつもりなんだ?」


 するとリナがそれに答えた。


「この罪人の首輪を外して逃げるんだよ。ただよ、外すのに金貨50枚掛かるらしいけどな」


「その話なら私達も知ってるよ。それなら問題ないな。金貨250枚あれば安いもんよ。よおし、話は決まりだね。3日で小型掘削機は用意してやるよ。それで決行はいつなんだ」


「掘削機が手に入ってから、最初の任務の時になると思うわよ」


「そうか、こりゃあ楽しみだな」


 結局マノン達に加えて5人、合計8人での作戦となったのだった。


 バーバラ達が居なくなった後、リナがマノンに尋ねる。


「マノン軍曹はあいつらが信用出来ると思うか?」


 するとマノン。


「リナはどう思う?」


「懲罰大隊にいるくらいだからね。信用出来る奴なんていないのが当然だけどね」


「やはりそうなるわね。でも今は信じるしかないからね」


 こうして作戦計画は進んでいった。










 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ