9話 掘削機を手に入れる方法
その日から彼女らは、計画の準備に大忙しとなった。作戦任務もこなした上での準備は中々過酷な作業だったが、その先には彼女らの夢である「自由」が待っているとあって、どんなに辛くても彼女らは絶えられた。
現在ボンゴ村は、人族軍の占領地となっている。その先のゴブリン占領地域にゴルドーの町はある。言わば最前線でもある。
その状況だと、ゴルドーの町へ行く口実はいくらでもある。出撃命令さえあれば、ゴルドーの町へ立ち寄れる。
それには作戦に必要なものを揃えなくてはいけない。
その中でも調達に苦労しているものがあった。それは小型の掘削機だった。ポンパンが持って来た地図によると、どうしても壁に穴を開けなくてはいけない場所がある。下水道の中の壁だった。爆破も考えたのだが、それは音と衝撃が大きすぎて見つかる可能性が高い。
掘削機ならば音を制御出来るし、マノンの土属性魔法との相性も良い。
それが駄目となると、商業ギルドの建物の正面から侵入しなくてはいけなくなる。それはゴブリン軍と真正面から戦うことになる。
それを避けるための掘削機だ。
地下から商業ギルドの建物に侵入して、そのまま速やかにお宝を持ち去る作戦だった。極力戦闘は避けるつもりで考えていた。
だが調達屋のアイナでさえ、小型の掘削機が手に入らないと言う。戦時中だから、そういった特殊機械は生産が止まっているからだろう。
あらゆるツテを使って調べたところ、ある人物の名があがった。
同じ懲罰大隊のバーバラ伍長だった。
先日一緒に戦った第3突撃兵中隊、第2小隊の隊長である。
バーバラ伍長は元建設大隊の小隊長だったことから、その名があがったのだ。建設部隊にいたなら、掘削機くらい何処で手に入るか知っているはずだと考えた。
そこでマノンがアイナに聞く。
「ちょっと待ってもらえる。バーバラ伍長に頼んだとして、確実に怪しまれるでしょ。何に使うか聞かれたらどうやって誤魔化すつもりなの。それに何処にあるか分かっても、それを手に入れる方法が無いかもしれないのよ。何よりバーバラ伍長は信用出来るのかなのよね」
「う〜ん、そう言われると何も言い返せないんだけど、今のところそれしか入手方法が見つからないなんだよね〜」
しばらく無言で考えるも、突然マノンが口を開く。
「仕方無いわね。バーバラ伍長に話を持って行ってみましょうか」
そこからは早い。
その日の内にバーバラに「内密の話がある」という伝言を送り、その日の夜に落ち合う約束までした。
マノンは何とか任務を終えて、時間ギリギリに待ち合わせの森へと向かった。もちろんアイナとリナも一緒である。
マノン達が到着すると、バーバラが一人で待っていた。
「こんな所に呼び出して内密の話とは何だ」
ストレートに聞いてきた。
そこでマノンも素直に答える。
「掘削機を都合つけて欲しい。装甲歩兵が使える程度の大きさのね」
「はあ? 何を言い出すかと思えば、掘削機だと。いったい何に使うつもりだよ」
「それは作戦で使う。ただ詳しくは言えない規則でね。金は払うつもりだから安心して欲しい」
バーバラは訝し気にマノンやリナ、そしてアイナを見る。そこでアイナに視線を止めたまま言った。
「何か隠してやがるな」
するとアイナが視線を泳がせながら答える。
「な、なんの事かな〜」
リナが腰のホルスターにそっと手を持っていく。
するとバーバラが声のトーンを少し下げて言った。
「やめときな、こっちの方が人数が多いよ」
その言葉の途端、周囲の森の陰から人影が現れる。現れたのは4人で、汚れてはいるが全員軍服を着ている。恐らくバーバラ小隊の兵士だろう、突撃銃を構えている。
アイナとリナも拳銃を抜いて構える。
人数でも武器の威力でも負けているが、そんな事はお構い無しに、アイナとリナは凄い形相で威嚇する。
そんな中でもマノンは特に慌てる様子も無く、軽く笑いながらつぶやいた。
「ふっ、抜け目無いみたいね」
そしてバーバラ。
「まあ、喧嘩しに来た訳じゃないんだろ。正直に話せよ。こう見えても口は固い方だぞ。ほら、お前ら、もう銃は下ろして良いぞ」
その言葉でバーバラの部下が銃を下ろすと、アイナとリナも銃を下ろした。
そしてバーバラは再び話を切り出す。
「私が元々建設部隊からこっちへ来たってのは知ってる様だな。まあそれで掘削機の話を持って来たんだろうけどな。話の流れから推測するとだよ、軍の作戦じゃないんだろ。懲罰部隊の作戦で掘削機なんか使うはずがないからな。それくらいは建設部隊にいた私なら分かるんだよ。だからさあ、話しちゃえよ、な?」
バーバラが悪そうな笑みを浮かべた。
それにマノンが、やれやれと言った感じで答える。
「バーバラ伍長、あなたの言う通りで、掘削機は私達個人の作戦で使う。ただしこの先を聞いたなら同罪で後戻りは出来ないけど、覚悟は出来ているの?」
「ああ、はなっからそのつもりだよ。なあ、皆もそうだろ」
するとバーバラの部下達も「覚悟は出来てるよ」とか、「問題ないね」とか言い出した。
そして「この話は絶対に他に漏らさない事」と釘を刺した後、マノンは作戦のあらましを説明した。
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説明が終わるとバーバラがつぶやく。
「面白そうじゃないか。そういうのを待ってたんだよ。それでその取引用の金貨って幾らになるんだい」
「取引用金貨は普通の金貨10枚分で、全部で220枚って言ってたから、経費を差っ引いて……そうね一人頭の取り分を金貨に換算すると、270枚ってところね。ただし経費は暫定だからまだ掛かるかもしれないわよ」
「ひとり当たり金貨270枚、金額にすると270万コロネだぞっ、そいつはすげ〜!」
「でも失敗したら銃殺よ、それは忘れないでね」
「分かってるって。でもさ、あんたらそんな大金を得てよお、ここにいたらそれこそ宝の持ち腐れだろ。どうするつもりなんだ?」
するとリナがそれに答えた。
「この罪人の首輪を外して逃げるんだよ。ただよ、外すのに金貨50枚掛かるらしいけどな」
「その話なら私達も知ってるよ。それなら問題ないな。金貨250枚あれば安いもんよ。よおし、話は決まりだね。3日で小型掘削機は用意してやるよ。それで決行はいつなんだ」
「掘削機が手に入ってから、最初の任務の時になると思うわよ」
「そうか、こりゃあ楽しみだな」
結局マノン達に加えて5人、合計8人での作戦となったのだった。
バーバラ達が居なくなった後、リナがマノンに尋ねる。
「マノン軍曹はあいつらが信用出来ると思うか?」
するとマノン。
「リナはどう思う?」
「懲罰大隊にいるくらいだからね。信用出来る奴なんていないのが当然だけどね」
「やはりそうなるわね。でも今は信じるしかないからね」
こうして作戦計画は進んでいった。