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8話 隠し金庫









 嫌な汗がポンパン老人の禿げた額から流れるのが見える。

 それでマノン軍曹は何か感じ取ったらしい。


「そう言う事ね……でポンパン、ギルドには幾ら隠してあるか言え」


 突然マノンの口調が変わった事に驚く老人。それに確信を突かれたのか、表情が大きく変わる。


 沈黙を続ける老人にマノンはある提案を切り出す。


「それなら私から提案をしよう。そのギルドから我々が“それ”を運び出してやろう。その代わりに手数料を貰うと言うのはどうだ?」


 それを聞いた老人がボソリと言った。


「……手数料?」


 マノンが言ったことは正解な様だ。ギルドの中に何かしら隠している。

 そこで少し強気に出ることにするマノン。

 

「良く聞けよポンパン。あの町は今、一個大隊のゴブリン部隊が占領している。お前にそこから盗み出す事が出来るのか。その点我々は軍隊だ。部隊を率いて武力で敵を制圧出来るんだぞ」


 もちろん一個大隊のゴブリン部隊というのは話を盛っている。

 しかし効果てきめんだった。


「確かにそうなのじゃがな。お主らが持ち逃げする可能性だってあるじゃろ。そう簡単に信用は出来ん」


 もっともな意見だった。

 しかしマノンは襟元をめくって言った。


「この首輪が何か分かる?」


「ざ、罪人の首輪か……」


「そうだ、この首輪がある限り、一定の範囲から出ることが出来ないのよ。だから持ち逃げなんて出来る訳がないでしょ。どう、これで信用してもらえるかしら」


 少し考えて後、老人は口を開いた。


「分かった、その提案を飲む事にするわい」


 そこで老人は経緯を話し始めた。老人の話はこうだった。

 ボンゴ村のさらに奥にある町に、この老人が働く商業ギルドがある。町の名はゴルドー。現在はゴブリン軍の勢力圏内である。

 だがボンゴ村が人族軍の手に落ちたと聞いた老人は、もしやと思いゴルドーの町の近くまで仲間達と行こうとしたそうだ。上手く行けば町に入れると思ったらしい。

 その結果、ゴブリンの部隊に遭遇して、命からがら逃げて来たという訳だった。そのため仲間とは散り散りになり、荷物も放置して来たという。


 それを聞いてマノンは疑問が湧く。お金だけが目的じゃないなと。


「ポンパン、質問しても良いか」


 マノンの神妙な表情に警戒する老人だったが、うなずくしか道はない。

 そこでマノンはストレートに質問した。


「ゴルドーの商業ギルドには、金以外に何がある?」


 マノンは商業ギルドに、何か大切なものが残されていると予想したのだ。

 すると老人は明らかな動揺を見せる。


「ど、どうして、そ、そんな事を聞くのじゃ」


 これはお宝が眠っていると確信するマノン。


「命の危険があるところにわざわざ出向くには、お金以上の何かがそこにあるってことでしょ。それにゴブリンが占領してるってことは、ゴブリンには価値が無いけど人族には価値があるものってことね?」


 すると大きく息を吐いた後、老人は言った。


「ふぅ〜、ワシの負けじゃな。そうじゃよ、あそこにはワシらにとって大切なものがあるのじゃよ。それは証書じゃよ」


 そこで初めてアイナが言葉を挟む。


「証書ってお金より価値があるの?」


「そうじゃ、その証書の束が隠し金庫にしまってあるのじゃ」


 それは借金の証書に土地の証書、契約の証書まであらゆる証書が保管してあるらしい。

 確かに証書によっては他人に渡ると大変な事になる。


 元々ゴルドーの町は、人族の領土内にあった人族の町である。ゴブリン軍の侵攻で現在は彼らの支配下となっており、住民は誰も居ない。かつての美しい町並みは無く、破壊と略奪で町は酷い有様となっている。

 その町の中心部に商業ギルドの建物があるのだが、恐らくその建物も略奪や破壊で酷いことになっていると思われる。しかし商業ギルドの建物の地下には隠し金庫があると老人は言う。さらにその隠し金庫は、ゴブリン兵には知られていないはずだと老人は言い切った。それほど完璧に隠された金庫らしいのだ。

 何でもゴブリンに興味の無い、物置き部屋の奥に隠し金庫はあるからだと言う。

 

 老人によるとその金庫には、商業取り引き用の金貨と各種証書などが保管されているという。それを持ち帰って欲しいのだと言う。

 特に証書の類はなんとしても欲しいらしい。

 それよりマノン達の興味は金庫の中の“金貨”である。


 その話を聞いたアイナとリナは、広角が上がるのを抑えられない。必死に手で誤魔化そうとするが、それは無理があった。明らかに浮ついている素振りだからだ。

 

 それを見たマノンはやや呆れた表情を見せるも、笑顔で新たな提案を始める。


「ポンパン、それならば隠し金庫から私達がその証書を持って来よう。その代わりに私達は金庫の中の金貨を頂く、と言うのはどう」


 その提案に老人は少し渋い顔をする。


「う〜む、それはちょっともらい過ぎじゃと思うぞ」


 だが、マノンは退かない。


「そうは思わないけど。逆にあなたは何もせずに生命の危険も無く、ただ待っているだけで大切な品物が手に入るのでしょ。その立場でもらい過ぎって、どっちがって聞きたくなるわよねえ」


 その言葉に老人は何も返せなくなる。

 するとマノン軍曹は満足そうに言った。


「さて、この契約で問題なさそうね。それではよろしく、ポンパン商業ギルド長」


 驚くポンパン老人。


「なぜワシがギルド長だと分かったのじゃっ」


 マノンは妖艶ようえんな笑みを浮かべて返答した。


「あ〜ら、カマをかけて正解だったようね」


「なんと……油断ならない女狐め。まあ、良い。仕事はしっかり頼むぞ。それから裏切るなよ」


 そして2人は握手を交わした。


 その後、計画を話し合い夕刻には老人と別れる。

 そしてマノンらは、何食わぬ顔をして野営地へと戻って行った。








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