表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/43

6話 深淵の誘い








 爆発はちょうど敵部隊が通り掛かったタイミングだった。


 大喜びで歓声を上げるバーバラ小隊の兵士達。バーバラ伍長が声を上げる。


「ははは、ざまあみろだね。バーバラ小隊を舐めてもらっちゃ困るよ!」


 橋の手前の道の真ん中に、橋に仕掛けてあった爆薬を利用したトラップが設置してあったのだ。その起爆はバーバラ小隊に任されていたという訳である。

 言ってみれば地雷みたいなものだ。


 その爆発から逃れたハング型も、バーバラ達の対装甲爆雷によって、次々に止めを刺されていった。


 しばらくして動くものが無くなってくると、徐々にその爆発の痕跡が見えてきた。装甲が破けて横たわるハング型装甲歩兵の数々。それに多脚が破壊され鎮座する多脚戦車と、横転した状態の多脚戦車。ハッチから乗員が脱出しようもんなら、バーバラ小隊の銃撃で穴だらけにされる。


 マノン中隊の89式2機が、警戒しながら様子を見に近付いて行く。バーバラ小隊は戦利品欲しさに、我先にと群がる様に敵の残骸へと走り寄る。


 そこでバーバラ小隊の獣人兵の耳がピクリと動いた。何かの音が聞こえたらしい。戦利品を漁る手を止め背筋を伸ばす。


「何かの機械音? ベアリングが転がる様な音が聞こえるね……」


 その獣人兵は音の方へ視線を移す。

 すると鎮座ちんざする多脚戦車の副砲塔が、ゆっくりと動いているのを見つけた。


「あの多脚戦車の砲塔、生きてるよ!」


 獣人兵がそう叫んだ時には、その副砲塔に搭載された連射銃が唸りを上げていた。


 戦利品を漁っていた突撃兵達が次々にぎ倒される。

 敵の多脚戦車は鎮座ちんざしても、トーチカの様な役目を果たしていた。

 バーバラ伍長が叫ぶ。


「止めを刺せとあれほど言っただろうが!」


 この原因はバーバラ小隊の兵達が戦利品に目がくらんだのがいけないのだが、今更何を言っても遅かった。バーバラが文句を言っているが、指揮官のミスともいえる。


 悲鳴と怒号が交差する。

 助けを呼ぶ者、必死に抵抗を試みる者。その全ての兵士が容赦なく銃弾に倒れていく

 そこは例えるなら地獄の拷問場である。

 不幸中の幸いなのは可動しているのは副砲塔の連射銃で、主砲塔は動かないままだった事だ。


 マノン達も急いで橋へと急ぐ。

 間に合わないと分かってはいるが、行かずにはいられない。

 

 その地獄と化した中でも、まだ突撃兵小隊の戦闘は続いている。

 近くの装甲歩兵の陰に隠れたバーバラ伍長が叫ぶ。


「対戦車手榴弾を使うんだよ!」


 その言葉に応じるかの様に、一人の獣人兵が勇気を振り絞って物陰から躍り出る。

 そして対戦車手榴弾の柄の部分を握り、大きく振りかぶって投擲とうてきした。

 距離にして70メートルって所だろうか。普通の手榴弾よりも重い、この対戦車手榴弾が届く距離ではなかった。

 だが残されたわずかな方法を試さない訳にはいかない。


 そして手から対戦車手榴弾が離れた途端、その獣人兵士は連射銃の餌食えじきとなった。

 胴体を駆け上がるように銃弾を受けた獣人兵は、一瞬で命を刈り取られた。


 だが獣人兵の死を引き換えにした投擲とうてきは、思いのほか飛距離が伸びていく。

 そして尚も攻撃を続ける多脚戦車の砲塔に、甲高い金属音を鳴らして『カーン』と跳ね返る。

 次の瞬間、眩しいほどの閃光を発して、多脚戦車の装甲の上を紫電が走る。

 稲妻系の魔法が発動したのだ

 中の乗員を焼き尽くす威力がある魔法だった。


 するとバーバラ小隊の兵士らが歓喜の声を上げた。


「ざまあみろってんだよっ」

「突撃兵部隊の恐ろしさを思い知ったか!」


 だが、そんな歓喜も束の間の出来事となる。

 連射銃が再び弾丸を撒き散らし始めたからだ。

 この時の突撃兵らの落胆は大きかった。

 今の彼女らの一番効果的な兵器が効かなかったのだ。


 駆けつけたマノン中隊の装甲歩兵も橋の反対側から攻撃を加わえるが、25ミリ自動短砲ではせいぜい多脚部分を破壊するに留まる。しかしすでに多脚戦車は行動不能となっていて、残った脚を破壊したところで意味が無い。

 反対に多脚戦車の連射銃も、関節部や配線部分等にあたらなければ89式には効かない。結局はお互いに決定打がない状況だった。

 そこでマノン軍曹がアイナに指示を出す。


『アイナ、投射砲を使って』

 

『りょ〜かい!』


 アイナは嬉しそうだった。やっとこの高価な武器を使えるとあって、テンションが上がっている。

 25ミリ自動砲の代わりに投射砲を持って89式を発進させた。


『も〜、いっちゃうよ〜ん!』


 物陰から飛び出し一気に橋を渡るアイナの機体。その機体にはアイナの個人識別マークである小悪魔のイラストが描かれている。


 橋を渡るや、けたたましい駆動音を響かせて多脚戦車の後方へ回り込む。


 連射銃の砲塔がそれに気が付き、アイナの機体を追う様に必死に砲塔を回転させていく。


 連射銃からタタタタッと乾いた発射音。


 アイナ機の通り過ぎた地面には、それを追うように銃弾の土煙が上がる。


 脚関節を狙った攻撃だ。


 アイナは機体を走らせながら照準するが、回避行動しながらの照準は至難の業だ。


 そこでマノンの機体が飛び出した。


『リナ、援護頼むわよ!』


 突然の命令と隊長自ら飛び出した事にリナは半笑いするも、それを追いかけるように自分も飛び出した。


『ったく、世話が焼ける隊長さんだねっ』


 マノンは多脚戦車に向かって、真っ直ぐに機体を走らせる。その後ろにリナの機体が続く。


 2機が橋を渡り切った所で連射銃の銃手に気が付かれる。

 そして急いで銃口をマノンとリナの機体に向けた。


 そこでマノンの声が無線から響く。


『今よっ、やって!』


 その声と同時にアイナの機体が急制動。

 土煙を上げて停止する。


 そして投射砲を構えるアイナの89式。


『バイバ〜イ!』 


 その言葉と共に、投射砲から有翼弾が射出された。


 極めて命中率の悪いこの武器は、静止した状態からでないとまず当たらない。

 しかしながら誘導装置を持たないこの旧式武器は、幅広い弾頭を射出できる便利武器だった。つまり強力な弾頭でも、有翼装置を着けられれば放てるということ。


 連射銃の銃手がアイナの行動に気が付いて再び砲塔の向きを変えようとするが、有翼弾はすでに砲塔に直撃する寸前だった。


 連射銃の銃手が「うあっ」と叫んだ瞬間、有翼弾が着弾して呪符された“深淵しんえんいざない”の魔法が解放された。


 多脚戦車を含めた一帯が暗闇に包み込まれる。

 そしてその暗闇の中でまだ息のあった者の悲鳴が木霊する。


 その暗闇の中で何が出現して、何が行われているのかは誰も知らない。ただその暗闇の中で生き残った者は、過去に誰も居ないと言われている。

 悪魔が現れて地獄に引きずり込んでるとか、ケルベロスが召喚されているとか噂は絶えないが、どれも噂に過ぎず誰も本当の事は知らない。

 まだ研究段階の魔法であった。


 しばらくすると暗闇が消えた。

 そしてそこに残ったのは多脚戦車の残骸と、恐怖の表情のままこと切れたゴブリン兵の亡骸なきがらだけだった。


 それを初めて見たバーバラ小隊の兵士は、余りの恐怖でしばらく呆然と立ち尽くした。










 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ