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43話 帰還








 沈没艇に開けた穴から侵入した兵士が、戻って来たとマノンに連絡があった。機関室にへは行けなかったらしい。

 そうなるとまた別の穴を開けることになる。

 しかしそんな時間的余裕を与えてはくれなかった。


「まずいっ、牽引ロープが切れるぞ!」


 そんな悲痛な叫び声が聞こえたかと思うと、1本の牽引ロープが弾ける様に切れた。


 切れたロープが甲板に打ち付ける。


 付近にいた兵士数人が、悲鳴と共に甲板の染みと成り果てる。

 

 甲板上はあっという間に、悲鳴と怒号が入り乱れる修羅場と化した。


 誰かが叫ぶ。


「こっちの牽引ロープも切れ掛かってるぞっ」


 その声と同じくして、沈没艇が砂の中へと引きずり込まれる。

 それに伴い巡視艇も鈍い軋み音を船体から発しながら、大きく引っ張られて行く。


 そこで野戦電話が鳴る。

 それをマノンが取る。


『軍曹、マノンよ。もう少し待って。別ルートを探している所ーー』


 しかし軍曹がマノンの言葉を遮った。


『このままだと共倒れになります。決断して下さい、少尉。間に合わなくなります』


 その言葉に衝撃を受けるマノン。

 それに対してマノンは「ノー」と言える根拠もない。軍曹が言ってる事は正しいと分かっている。

 マノンに言える言葉は……


『ごめんなさい……私は何も出来なかった』


 謝る事しか出来ない。


『何を言ってますか。十分やってくれました。だから早く、ご命令下さい。間に合わなくなります』


 マノンは震える小さな声で「ごめんなさい」と言った後、ジョージ副艇長に命令した。


「牽引ロープを全て解除……」


 ジョージ副艇長は複雑な顔で、他の下士官達に命令を繰り返す。


 命令が行き渡ると、ガクン、ガクンと振動が伝わってくる。牽引ロープを外す時のものだ。


 電話口からは、僅かに泣き声が聞こえる。

 若い整備兵2人のものだ。

 それをなだめる軍曹の声も聞こえる。


 マノンはただただ、それを聞いているだけで何の声も掛けられない。こころの中で謝罪を繰り返すだけだった。


 しばらくすると電話口から叫び声。そしてプツリと配線が切れて何も聞こえなくなる。


 マノンは窓に走り寄り、沈没艇の方に視線を向けた。


 そこにはゆっくりと砂漠に沈んで行く、陸戦艇の姿があった。


 ジョージ副艇長が無言で敬礼をすると、次々に他の乗組員もそれに従っていく。

 ただマノンだけは最後まで見ることが出来ずに、その場に崩れ落ちた。


 しばらくしてジョージ副艇長がマノンに話し掛ける。


「少尉、完全に砂漠に沈みました。次の指示を伺ってもよろしいでしょうか……」


 するとマノンはポツリと言った。


「撤収しよう」


「敵の陸戦艇はどうしますか?」


 そうジョージ副艇長が言った直ぐ後だった。

 敵の工作艇を監視していた兵から連絡があった。


「敵陸戦艇が沈んで行きます!」


 それに対して直ぐに、ジョージ副艇長が質問する。


「脱出艇は見えたか」


「はい、小型艇が2隻だけです」


 小型艇ということは、装甲歩兵は居ない事を意味する。

 そしてジョージ副艇長は改めてマノンに聞いた。


「少尉、敵の脱出艇を追跡しますか?」


 するとマノンはフラフラと立ち上がりながら返答。


「放って置きましょう」


「了解しました。それでは我が巡視艇102号は火宝山への針路をとります」


 こうして敵工作艇の撃沈任務は終わりを告げた。


 そしてアイナとリナがブリッジに戻ると、そこにはまだマノンが床に座ったままだった。

 



 □ □ □




 火宝山に戻る途中、敵の偵察用飛空艇を何度も見かけた。

 さらに敵の監視用ブイまでも発見した。

 監視用ブイとは無人のブイで、燃料が続く限りただ砂漠に浮いているだけもの。

 だが近くに金属物体が通ると、電波を発進する。つまり陸戦艇が近くを通る度に反応して、何隻近くを通ったか分かる。

 ゴブリン工作艇が仕掛けたものだろう。


 見つける度に破壊するも、砂漠迷彩に塗装されていて普通に見つかるものでもない。それに砂漠上に出ている部分は人間の頭程しかない。

 これでは簡単に見つけられる様なものでも無い。

 だから敢えて探しはしなかった。


 こんな事もありながらも、巡視艇102号は無事に火宝山に戻って来た。

 それで巡視艇102号の艇長であるマキシム中尉だが、到着して直ぐに後方の野戦病院に送られたらしい。何でも戦闘中の恐怖に絶えられなくなったとかで、全身の震えが止まらず常に意味不明な言葉を口ずさむらしい。早い話、精神が壊れたのだ。

 それを聞いたマノンは一言「お大事に」とつぶやいただけだった。


 そして戦利品のクラーケン型だが、巡視艇からの積み下ろしで存在が明るみになり、大隊本部に提出は避けられない状況となった。

 何とか誤魔化そうとしたマノン達だが、結局は97式に装着していた噴射ブーツだけは誤魔化せたが、機体と武器は没収されたのだった。

 軍の開発部にでも送るのだろう。


 それから3週間ほどしたある日の事だった。


 マノンの元に大隊本部から連絡があった。

 それはゴブリン機動部隊の総攻撃が始まるという知らせだ。

 味方偵察機が敵の機動部隊を発見したらしい。その機動部隊には上陸部隊と思われる輸送艇や、強襲揚陸艇も含まれていた。


 敵の偵察機が日に何度も空を飛び交い、マノン達の偵察任務が多くなった事で、マノン達も予想はしていた。


 ただ予想より早かったのだ。


 その連絡を聞いた時、アイナが言った。


「マノン少尉〜、弾薬と燃料が足りなくなるかも〜。それと水と食料も足りなくなるかもよ?」


 アイナの闇の調達ルートをもってしても物資が足りないと言うことは、大きな戦闘が起ころうとしている証拠でもある。それを見越して常に物資補充はしてきたのだが、それでも足りないと言う。

 そもそも最前線の離れ小島への輸送ルートは、輸送する量も回数も限られる。

 

 そして物資の調達の目処が立たないまま、遂にゴブリン機動部隊による総攻撃が始まった。


 砂漠を埋め尽くす程の数の敵陸戦艇が現れた。


 人族軍にはそれを迎え討つ陸戦艇が、用意する事が出来なかった。

 数少ない駆逐艇や護衛艇、そして巡視艇までもが港に係留させて堡塁ほうるいとなった。

 しかしそれらは全て炎宝山での事。


 火宝山には巡視艇しかない。

 それも何故か全ての巡視艇は、2日前に居なくなった。

 それだけでは無い。

 何故かあれだけ居た大隊本部の兵士も、一晩でごっそりと居なくなった。

 火宝山には懲罰大隊の中隊だけが残っていた。

 突撃中隊、猟兵中隊、装甲歩兵中隊の3個中隊だ。


 リナがつぶやいた。


「あいつら、逃げやがったな……」











完全にストックが切れました。

書き溜めします……



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