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懲罰部隊の装甲歩兵   作者: 犬尾剣聖


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41話 一騎討ち









 沈没艇のブリッジと船首部分が見えた所で、牽引ロープが切れ始めてしまった。

 このまま引き揚げ作業を続けると、全ての牽引ロープは切れてしまうだろう。そうなると沈没艇は再び砂の中へ沈む。途中まで引き揚げた状態でロープが切れると、勢いが付いた状態で沈没艇を砂に放つ事になる。

 きっとその衝撃で船体は潰れ、さらに深く沈み2度と浮いては来れないだろう。


 マノンもそれに気が付いていた。しかし緑の悪魔と対峙している今は、なすすべがない。


 味方誤射を防ぐ為に巡視艇の防御砲火が止んだのだが、まるで思う存分に一騎討ちをしてくれ、とでも言っているかの様であった。

 ただし射程の長い主砲だけは、敵の工作艇へ砲撃を繰り返していた。

 しかしながら砲撃は当たる気配がない。

 静止状態で当たらないのだから、腕前はド素人も良いところだ。

 

 マノンはと言うと、緑の悪魔の機体と真正面で向き合う事になり、覚悟を決めたようだ。

 お互いの機体が加速する。

緑の悪魔は機体左手の盾を殆んど構えず、右手の雷撃ロッドを肩の位置で構える。攻撃重視の構えだ。

 

 一方マノンは盾で防御をし機体右手でなたを構える、防御と攻撃のバランスをとったオーソドックスな構えである。

 

ーー緑色の悪魔に私は勝てるのか?


 そんな思いが頭を過ぎる。

 それに機体の脚部が損傷したままでもある。

 そんな不安を抱えたまま、マノンは戦いに挑む。


 緑の悪魔とマノンが最接近。


 先に攻撃を仕掛けたのはマノン。

 すれ違いざま、なた横薙よこなぎに振るう。


 緑色の悪魔はそれを難無く避けて見せる。

 避けると同時に脚部を軸にクルリと回転。

 マノン機の背後に回る。


 即座に緑の悪魔が雷撃バトンを振り下ろす。

 狙うは97式の背部スラスター。

 そこをやられると、風魔法による走行が出来なくなる。


 マノンの背筋に悪寒が走る。

 咄嗟とっさに旋回を試みる。


 だがそこで脚部に負荷が掛かった。

 損傷部位のひざ関節がガクンと折れ曲がる。


 すると機体が横滑り。


 雷撃バトンがマノン機をかすめる。

 

 緑の悪魔にしたら完璧な攻撃。まさか避けられるとは思いもしていない。

 緑の悪魔は表情を変えながら、マノン機とは反対の方向へ一旦離脱する。


「俺様の捻り込みをかわしただと!」


 声を上げつつも距離を取り、再び攻撃態勢に移る緑の悪魔。


 逆に「何で攻撃を止めたの?」と良く理解していないマノンも、緑の悪魔と反対の方向へ退避して行く。


 結局は両機体が距離を取って、再び真正面同士で対峙した。


 緑の悪魔がつぶやく。


「まぐれは何度も続かない!」


 とは言っても警戒はしていた。

 緑の悪魔は今度は盾も構えて、攻守バランスのとれた攻撃態勢で挑む。

 

 反対にマノンは、機体を盾に隠すように構える。防御優先で挑むらしい。


 そこで両機体はほぼ同時に加速した。


 あっと言う間に接近する両機体。


 先に攻撃したのは緑の悪魔。


 雷撃バトンがマノン機に迫る。


 マノンは機体の姿勢を低くして盾で防ぐ。

 だが、ただ防ぐだけではなかった。


 低い姿勢から一気に脚部を伸ばし、盾を強く押し返した。


 少しだけ驚く緑の悪魔。


「そうくるか!」


 シールドバッシュという技だ。

 まともに受ければ、機体の重さも相まって下手したら転倒する。


 だが緑の悪魔は、それを先程の“捻り込み”機動で避けた。


 そして緑の悪魔の雷撃バトンが垂直に振り下ろされる。


 マノン機は僅かに機動を変えて盾をかざす。


 盾の上を滑るように流される雷撃バトン。


 そこで魔法発動。


 盾の表面を紫電が駆け抜ける。


 その時に緑の悪魔は、マノン機のパーソナルマークに目が留まった。


ーー骸骨に刺さったなたのイラスト


 それは空母を沈められた時の生存者が証言した、人族の装甲歩兵のマーク。


ーーこいつが単機で空母、そして駆逐艇まで沈めた装甲歩兵のパイロットなのか


 盾で防いだマノンは、直ぐになたを振るおうとするが、またしても脚部に負荷が掛かった。


 僅かに97式の機体が横に流れる。


 それでなたの機動が変わる。


 緑の悪魔はスラスターを吹かして、完全になたの機動から逃げたはずだった。


 はずだったのだが……


「何だと!?」


 逃げた方向へなたが迫ってきた。


 脚部の装甲板をなたが弾き飛ばす。

 

 弾き飛ばした装甲板に対して、アースシェイク魔法が発動。


 緑の悪魔は慌てて距離を開ける。


 空中に飛ばされた装甲板が振動する。


 そのまま両機体は距離を開けた。


 そしてお互いに「危なかった」と警戒を強める。


 マノンは「どうする?」と次の一手に困っていると、緑の悪魔がまたしても加速して来る。

 考える暇もなくマノンも機体を加速させた。


 緑の悪魔が笑みを浮かべながらつぶやく。


「2度も防ぐとはな、人間のクセに大した奴だ。だが最後に勝つのは俺様だ!」 


 両者が接近し、お互いの間合いに入る寸前だった。


 マノンの機体が急ターン。

 砂塵が高くまで巻き上がった。


「くそ、目眩ましかっ」


 緑の悪魔はそう考えたのだが、単にマノン機の脚部の不調が原因で砂塵が舞い上がっただけだ。

 

 緑の悪魔はその砂塵を盾で防ぐ。

 そして視界を確保した時には、目の前にマノンの盾が迫っていた。


 緑の悪魔はそれを自分の盾で弾き返す。


 しかし目の前にはマノン機の姿が無い。

 弾き返した盾が砂に沈んでいくのが見えるだけだ。


「ど、どこへ行った、まさかーー」


 緑の悪魔が急ターンをしようとした時。

 

 後ろに回り込んだマノン機が、なたを振り下ろしていた。


「捻り込みをやっただと!」


 驚きを隠せない緑の悪魔のパイロット。

 だが緑の悪魔もエースパイロットの一人。

 雷撃バトンを持った腕を犠牲にしてなたを防ぐ。


 腕部分に命中したなたは、即座にアースシェイクの魔法を発動。

 振動は腕を通してコクピットまで響いた。

 土魔法が得意なマノンならではの威力だ。


 緑の悪魔のパイロットは、あまりの威力に悲鳴を上げた。


「ーーがあああっ」


 だが生命をとるまでにはいかない様だ。

 苦し紛れに猛ダッシュして後退する緑の悪魔。


 だがそれを見す見す逃すマノンではない。


 機体を加速。


 そこで直進しない事に気が付くマノン。微妙に曲がるのだ。良く見れば、コクピットからの視界が斜めである。機体の片脚が曲がったままらしく、それが原因で直進出来ないらしい。

 それで直ぐに速度を落とすマノン。


 そのタイミングで無線が鳴り響いた。


『マノン少尉っ、沈没艇がヤバいぜ!』


 リナからの無線だった。


 マノンが沈没艇を見ると、先程から引き揚げが進んでいない。そこから見た感じでは、それ以上は良く分からない。

 さらにマノンは視線をリナ達の方に移す。すると敵のもう1機のクラーケンも後退している所だった。アイナとリナの2人が、何とか追い払った様だ。


 その先に見える敵の工作艇も、かなり酷い状況となっている。味方巡視艇からの砲撃が命中したらしい。まぐれ当たりでも命中は命中だ。


 マノンが攻撃した時の損傷に加え、今回の砲撃で火災が発生。工作艇からは、煙が空高くまで登っていた。


 そこでマノンは判断した。


『リナ、アイナ、あの工作艇はじきに沈むわね。任務完了よ。それより巡視艇が大変な事になってるらしいのよ。戻りましょう』


『了解』

『りょ〜か〜い』


 3人は巡視艇へと戻って行った。






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