表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/43

4話 増援










 そのアイナは、新しく手に入れたコブリン製の盾をイジっている。

 そこでマノンが声を掛けた。


「アイナ、その武器はどうした」


 マノンが目にしている武器は、一見25ミリ自動短砲に似ているのだが、その砲身の長さが違う。これは少し前に試験的に行った、25ミリ自動短砲の砲身を長砲身へと換装させる実験、それがマノンの記憶にはあった。きっとその時のものだろう。だが何故それがここにあるのかだ。


 そしてアイナはケロッと白状した。

 

「大隊の倉庫にあったから、借りてきたんだよ〜ん」


 それを聞いたマノンは思った。それって“借りた”ではなく“盗んだ”が正しいだろと。だが、敢えて口には出さない。

 しかし何故そんなものが懲罰大隊の倉庫にあったのだろうか、マノンは首を傾げる。

 だが直ぐに気を取り直し声を上げた。


「全員乗り込みなさい。3分後に出発するわよ!」


 こうして定数には全く足りない人数のまま、マノン中隊は野営地を出発した。

 通常の中隊であれば26機の装甲歩兵が定数であるが、現在のマノン小隊は10機しか無い。補充兵は結構来るのだが、肝心の装甲歩兵がこの隊には回ってこない。回ってきても使い古した旧型の機体に旧式の武器。まともに使えた物じゃないが、それを何とか修理して戦列に加える訳だ。 

 たがそんな代物で出撃すれば、生き残って帰ってくる者は少ない。そんな繰り返しで、常に人員と機体が足りない状況だった。

 それも師団司令部の懲罰大隊への考え方が、消耗品という扱いというのが大きい。所詮は犯罪者という扱いなんであろう。


 マノン中隊はしばらく行軍をし、無事に接敵もせずに川付近までたどり着いた。

 この川を辿たどれば橋が見えてくるはずで、その橋こそが目的の場所である。特に大きな橋ではないが、この辺りには2カ所しか橋が無い。東側にそのもう1カ所があるが、そこは橋が古いから車両は通れないと師団司令部から聞いていた。それはつまり、この辺りで唯一車両が通れるのがこの橋である。この意味は大きい。

 そう考えると師団司令部にとってこの橋は、非常に重要なんだと理解出来る。

 マノンがそんな事で考えを巡らしていると、リナから声が掛かった。


「斥候、行きますか?」


 そうだ、まずは現状を確認しないといけないと、マノンは意識を目の前にもどす。


「アイナ、リナ、橋を見て来てもらえる」


 すると二人は文句もなく、直ぐに姿勢を低くして川沿いに進み始めた。アイナとリナはマノン中隊の第一小隊なのだが、規定5人のところ2人しかいない。どんなに増えても結局生き残るのは2人だから今も2人と言う訳だ。それで“死神”なんて呼ばれているのだが。

 アイナは小柄な少女を思わせる外見だが、リナは正反対で、褐色の肌をした鍛えられた身体をしている。

 アイナの中隊内での位置は調達屋である。

 どこから調達してくるのか誰も知らないが、エッと声を上げるほとの物を調達して来ることもある。

 アイナとは正反対の体格なのがリナであった。リナの鍛え上げられたその身体は、喧嘩の仲裁に持って来いだった。彼女は格闘技も得意としていて、男との喧嘩に勝つほどの腕前である。アラクネ部隊で素手で彼女に勝てる者は居ない。

 そんな彼女ら2人は、この懲罰部隊で半年以上も生き残って来たベテランでもある。


 30分ほどで二人が戻って来た。

 その報告によると橋の見張りは、1個小隊程の歩兵だけだと言う。装甲歩兵でもなく単なる生身の歩兵らしい。

 するとリナが提案する。


「マノン隊長、どうします。橋の警備は手薄ですよ。今なら一気に殲滅せんめつできちゃいますよ」


 それにマノンが返答する。


「村の中にいる戦力次第なんだか……」


 橋に居なくても村の中に装甲歩兵部隊が1個中隊でもいたら、橋の確保どころではない。橋から村まで1キロの距離、直ぐに増援が来るだろう。敵は当然重武装で来るだろうから、マノン中隊は被害が大きくなってしまう。

 しかし橋を奪取するには、今が絶好の機会でもある。


 上に報告するにしても、何も出来ませんでしたで戻る訳にもいかない。そんなことしたらそれこそ命令不服従の罪で処刑されてしまう。

 被害が大きかろうが橋の確保の報告を入れるか、負傷者多数を出さないとサボってたと言われる。どの道、彼女らは命の危険はあるということだ。


 そんな事を考えていた時だった。

 マノンの無線に連絡が入る。


『マノン軍曹聞こえ……か……ザザ……』


 ノイズが入ってくる様だ。


『はい、こちらマノン中隊、感度不良ながら何とか届いています』


『こちら大隊……ザザ……を送りました。そろそろ……ザザ……』


 そこで無線は切れてしまった。しかし大隊本部からここへ、何かが送られて来るらしい。

 しばらくしてそれが、味方部隊の車両だと分かった。2両の兵員輸送車である。

 まさかの増援だった。

 マノンにとって、この部隊での増援は初めての事だ。


 だがその兵員輸送車から降りて来た者達を見て、マノンは唖然あぜんとした。


「第3中隊の突撃兵だと……」


 マノン中隊は正式には第1中隊だが、アラクネ部隊には他に2個中隊存在する。

 マノンの第1中隊は装甲歩兵部隊だが、第2中隊は機動猟兵部隊で、第3中隊は突撃兵部隊だった。

 

 その第3突撃兵中隊の、1個小隊が増援に来たのだった。やはり定数割れはしているものの、23名の突撃兵がいる。もちろん全て女性であるが、その殆んどが獣人だった。

 獣人は人間よりも身体能力が上だが、細かい作業は向かない。それで大抵は歩兵部隊へ配属される。懲罰部隊となっても同じだ。

 そして懲罰部隊における突撃兵の死傷率は、群を抜いて高い。突撃兵の戦い方は常に“突撃”だからだ。

 

 兵員輸送車から突撃兵らが降りると、兵員輸送車はさっさと元来た道を帰って行く。ここにいる突撃兵には、帰り道は無いとでも言いたいかの様だ。


 突撃兵達は降ろされた場所で、ざわつきながらキョロキョロしている。

 そこでマノンは突撃兵の中の小隊長らしき女性へと歩み寄った。

 マノンは背中を見せている女性に声を掛けた。

 階級は伍長である。


「伍長、貴官がこの隊の指揮官で間違いないか?」


 すると伍長は振り返り、マノンの階級章をチラリと見る。そして改めて雑な敬礼をしてから口を開いた。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ