38話 砂漠の上での戦い
3機の敵装甲歩兵が真直ぐマノンへと向かって行く。
敵は突出するマノンの機体から排除する作戦のようだ。
目の前の敵が新型に搭乗していると言う事は、彼らは恐らく精鋭のゴブリンパイロット。それでなくても緑の悪魔がいる。
そう考えるとアイナとリナの援護射撃があるとは言え、あまりにも不利な状況。この状況を打開できる方法などあるのかと悩むマノン。
マノンの視線の先にには敵の新型のクラーケン型が3機と、その後方には母艇である工作艇が1隻がいる。
それを見てマノンはある考えが浮かぶ。
ーーやってみる
マノンの表情が一段と険しくなる。
その頃アイナとリナの2人は遠距離からの狙撃を試みているのだが、陸上とは全く違う装甲歩兵の機動。そして噴射ブーツによる不安定な体勢に悪戦苦闘していた。
『も~っ。狙いが付かないよ~‼』
そんな事を言いつつもアイナは何とか射撃をしている。
狙撃の得意のアイナがそれなら、そこまで射撃が上手くないリナは手が付けられない。
『私なんか、狙うどこじゃないよ。照準器内に入りゃしないからね!』
そう言うリナの銃口はブンブンと左右に振られているだけで、まるでノリノリのトランペット奏者の様だった。
もちろん弾は一発も撃ててはいない。
そんな状況でアイナ。
『ね~ね~、リナ。このままじゃマノン少尉がヤバくない?』
『確かにそうだけど、だからってどうすれば良いんだよ』
『う~ん。そうなんだけどさ~……』
そんな事を話している内に、敵が左右に別れた。
2機が左方向へ、そして緑の悪魔は右方向へと向きを変えた。
それを見たリナが叫ぶ。
『奴らマノン少尉を挟撃する気だぞ!』
『ヤバい、ヤバい、どうする、どうする~⁉』
敵はマノンの機体の挟み撃ちを狙っていた。
しかしマノンはそれに構わず、真直ぐに突き進む。その中央の空いた空間に入り込んで行く。
その行動に驚いたのは敵側だった。
普通は挟撃されない様に避けるのだが、マノンはそれをしないどころか自ら入り込んで来たかだ。
敵クラーケン型1号機のゴブリンパイロットが笑い声を上げる。
『2号機、見ろよあの敵装甲歩兵。自分から射線に入って来るぜ。素人か単なるバカなのか、笑わせてくれるな。ギャハハハ』
『ありゃあ、素人で大バカなんだろうな。さっさと片付けて、後ろ2機の装甲歩兵も黙らせーーーー待てっ、今あいつ、俺達の母艇を撃ちやがったぞっ!』
マノンは工作艇へ噴進砲を発射した。
2機のクラーケン型が慌てて連射砲を構えるも、マノンの機体が母艇と射線上に重なり撃つことが出来ない。
『駄目だっ、射線上が通らねえ!』
『くそっ、もう少しで射線が……』
マノンはさらに噴進砲を発射。
2発共にブリッジ付近に吸い込まれて行く。
そして連続して爆発。
煙を吐きながら工作艇は回頭。再び砂嵐の中へ逃げ込むつもりだ。
工作艇からは激しい防御砲火がマノンの機体
へと降り注ぐ。
さらに射線を確保したクラーケン型からも、マノンへめがけて弾丸が撃ち込まれていく。
マノン機は盾を構えつつ、その弾幕を右に左にと避けていく。
そして敵工作艇は反転すると、砂嵐に向かって速力を上げ始めた。
マノンはそれを待っていた。
敵工作艇の真後ろに付けたマノン。
工作艇はブリッジを破壊されて混乱、回避行動が取れない状況だ。
そこへマノンは残弾1発だけの噴進砲を構える。
その狙いの先には、工作艇の無防備な推進装置があった。
マノンは噴進砲の発射と同時に急旋回。
左側の2機のクラーケン型へと向きを変えた。
そして噴進砲を投げ捨てるや、腰の鉈を引き抜く。
その後方では、推進装置が爆発炎上する工作艇がいた。
クラーケン型の2機からは、怒りに燃えた激しい銃撃。
『俺達の艇をよくもやってくれたなぁ!』
『人間めっ、死にさらせ!』
銃撃を盾で防ぎながら突進して行くマノン機。
クラーケン型の1機が弾切れを起こす。
怒りで我を忘れて引き金を引きっぱなしにした為だった。
『くそっ、た、弾切れだ。1号機援護頼むっ。マズい、ヤツが来るぞ、うわあああっ』
クラーケン型は必死に盾を構えようとするが間に合わない。
次の瞬間、クラーケン型の胴体に斬撃が走る。
その横をマノン機がすり抜けて行く。
斬撃を喰らったクラーケン型が、動きを止めたままブレた様に見える。
アースシェイクの魔法が発動したのだ。
高速振動がクラーケン型のコクピット内を粉砕する。
マノンの鉈から空になった魔力カートリッジが排出し、音も無く砂漠に落ちていく。
マノン機が通り過ぎると、クラーケン型は前のめりに砂漠へと倒れ込む。
倒れ込んだコクピットの隙間からは、鮮血が漏れ出ていた。
一瞬で2号機が撃破された事に驚く1号機だが、そこは精鋭パイロット。冷静さを保って反撃に出た。
しかしマノンは加速を止めずにその場から離れて行く。
その後を追うように、クラーケン型の1号機から連射砲が発射される。
マノン機を追うように敵弾が砂を舞い上げる。
クラーケン型1号機は必死にマノン機を追う。
そこへ緑の悪魔から1号機へと無線があった。
『1号機、深追いするな。母艇に戻れ』
『しかし少尉……』
『副長から連絡があったんだが、艇長が戦死したらしい。それに母艇の被弾が深刻らしい。帰るところが無くなるぞ』
『艇長が戦死、ですか……分かりました』
こうしてクラーケン型と緑の悪魔は、工作艇へと帰って行く。
そして工作艇は、ゆっくりと砂嵐の中へと入って行った。
それを見たアイナとリナは大喜びだ。
『やった、敵が逃げ出したよ〜』
『すげ〜、さすがマノン少尉だな』
戦闘が終わりマノン機が巡視艇に戻って来ると、機体が無傷では無いことが判明してきた。
複数個所に被弾がある。
致命傷はないが装甲がふっ飛ばされたり、盾の一部が破壊されたりと、その他にも多数の被弾を確認した。
旧型の89式だったら持たなかっただろう。97式だからこそ、切り抜けたとも言えた。
少し走ったところでマノン機は、被弾確認の為ホバリングする。
そこでアイナとリナがマノン機を点検だ。
「結構やられたね〜、でも走行には問題ないぽ〜い。あっ、脚関節にも被弾してる〜」
とアイナ。
そしてリナ。
『脚関節はまあ、速度出さなきゃ大丈夫だろ。しかし火宝山に戻ったら、脚ごと交換するようだな』
するとマノンはガッカリする様子で返す。
『脚交換って……数週間は掛かるわね。ああもう、またお金掛かるわねーー』
そこでマノンは思い出す。
『ーーあっ、敵のクラーケン型っ。まだ、間に合うかも。アイナ、リナ、手伝って!』
マノンが倒したクラーケン型を回収しようと思い立ったのだ。
3人は猛ダッシュで撃破現場へと向かうのだった。




